子供を持つことで収入や生活水準が低下しかねないという不安を、若い世代から払拭したい。
岸田文雄首相は少子化対策として、育児休業給付を拡充する考えを表明した。産後の一定期間に男女で育休を取得した場合、給付率を手取りで10割に引き上げる。
仕事と育児の両立を後押しする政策として妥当であり、速やかに実現してもらいたい。
政府の全世代型社会保障構築会議は昨年12月の報告書で「子供を持つことにより所得が低下するか、それを避けるために子供を持つことを断念するか、といった『仕事か、子育てか』の二者択一を迫られる状況が見られる」と指摘した。この深刻な状況を一刻も早く解消しなければならない。
男性が取得する「出生時育休(産後パパ育休)」は、女性の出産から8週間以内に、最大4週間取得できる。現在の給付率は休業前収入の67%で、引き上げにより80%程度にする。休業中は社会保険料が免除されるため、手取り収入の実質10割に届くという。女性も同様に給付を積み増す。
雇用保険料が財源となっているため、給付対象外の非正規やフリーランス、自営業者に対しては新たな経済的支援を創設する方針だ。正規と非正規で育児支援に差があるのは適切でない。支援の差をなくすのが望ましい。
最大の課題は財源である。雇用保険財政は、新型コロナウイルス禍での雇用下支え策の影響で逼迫(ひっぱく)している。保険料は労使折半であるため、引き上げる場合、経済界の反発が予想される。医療、介護などの社会保険料を増額する案も浮上するが、本来とは異なる目的で引き上げることに対し、国民の理解を得るのは容易ではない。
政府は財源を早急に示し、実効性を担保してほしい。
企業側の努力も必要だ。育休の取得が、その後のキャリアに不利にならない制度が求められる。
首相は男性の取得率を令和7年度に50%、12年度に85%にする目標を掲げた。目標が高いのはよいが、取得率の向上にばかり目を奪われてはいけない。育休を取得した男性が、ほとんど育児をしない「とるだけ育休」の問題も指摘されている。産後パパ育休の趣旨が社会に根付くことを期待する。
夫婦で役割をしっかり話し合い、互いに納得する形で仕事と育児の両立を図ることが大切だ。