昨春から高校で「地理総合」が必修科目となり、まもなく1年になる。電子化した地図に人口密度や標高、施設などの関連データを重ねて分析できる地理情報システム(GIS)が活用されるなど、選択科目だった前身の「地理A」と比べ充実した内容になった。ただ、学校現場では専門的な指導を担える教員の不足も指摘されている。
「マップを開いて寒帯がどこの地域か探してみよう」
2月中旬、奈良県立高取国際高校(奈良県高取町)の1年生の教室。出張授業に赴いた奈良大地理学科の木村圭司教授の呼びかけに、生徒が一斉にタブレットに向かった。気候帯ごとに色分けされた世界地図をタッチすると、現地の写真や地域の情報が映し出され、生徒たちは寒帯特有の植生などを確認した。
授業を受けた男子生徒(16)は「他の地域の気候や様子も地図をクリックすればすぐに見ることができ、興味がわいた」と笑顔。インターネットを使ってGISにアクセスすれば、教科書には載っていない画像を多数確認できるという。
GISは地図データの上に、災害予測や地形分類といったさまざまな情報をひもづけられる仕組みで、地図アプリ「グーグルマップ」やカーナビも同じシステムだ。地理総合は、GISを使って自然災害などへの理解を深めることを大きな柱としている。
ただ、高校の地理歴史科で地理を専門とする教諭は2割程度で、専門外の教諭が授業を担当するケースが少なくない。高取国際高で授業を担当する松村泰毅教諭(33)も日本史が専門だ。
GISは情報を集めやすく、生徒の興味を引きやすいなど利点も多いが、不慣れな教員は授業を組み立てにくい側面があるという。高校地理の教科書執筆にも携わった木村教授は各地で出張授業を行うなど教員を支援しており、「大学や教科書会社などが情報発信し、指導法に迷う教員を手助けする必要がある」と話した。
「空間概念は必須」国際協力や防災も学ぶ
高校の地理は昭和47年度まで必修科目だったが、翌年度に国の教育政策が大きく変わり、選択科目になった。その後もしばらくは多くの生徒が選択していたが、57年度に現代社会が必修化され、地理を選択する生徒が激減した。
地図を覚えることが地理学習の主目的ではない。だが、イラク戦争のさなかだった平成16年度、日本地理学会が行ったアンケートで大学生の4割がイラクの位置がわからず、19年度調査では、タレントの東国原英夫氏が知事となり話題となっていた宮崎県の位置を6割の高校生が答えられなかった。23年の東日本大震災後には防災教育の必要性も指摘され、地理必修化の機運が高まった。
地理総合の学びは、世界各地の地勢や気候などの従来の内容に加え、国際協力や防災など多岐にわたる。
日本地理学会の井田仁康・地理教育専門委員長は「空間概念は何を考えるにも欠けてはいけない要素。地理を使った思考力を養ってほしい」と期待を込めた。(木ノ下めぐみ)