記者発

「サンケイ、それが質問か」 ソウル特派員・時吉達也

保守系紙の特派員としてソウルに赴任してから2年。時に、韓国メディアから「狙い撃ち」されることもある。

先の韓国大統領選では、あるニュースサイトが革新系の李在明(イ・ジェミョン)候補と私の会見でのやり取りを「李在明に返り討ちにあった日本人記者」の見出しで報道。私が泣いているように加工が施されたサムネイル(紹介画像)の動画は視聴回数が200万を超えた。

今回は、いわゆる徴用工訴訟問題の原告会見でのやり取りについて、「サンケイ、それが質問か」と題した韓国紙のコラムで〝叱責〟された。

敗訴した日本企業に代わり韓国の財団が賠償金を支出する韓国政府の解決案に対し、「容認」を表明する遺族が増えていることをどう思うか原告女性に意見を尋ねたのだが、コラムによれば、私の質問は日本の謝罪を求め続ける原告女性の「意固地」を強調する狙いで、原告団に対する「典型的な分裂工作」なのだそうだ。コラムは、原告団内部で混乱が生じている現状が「極右の代名詞である産経の記者をどれだけ意気揚々とさせたのか」と振り返った。

「この記者、本当に会見にいたのかな」。それがコラムを読んだ率直な感想だった。海外メディア向けだった会見の要旨を、後から文面だけ見たのではないか。そう疑った理由は、私が「意気揚々」どころか、間抜けな姿で場内の失笑を買っていたためだ。

会場ではなぜか私の質問の時だけマイクが作動せず、場内をあたふたと移動。同席した知人記者から「マイクまで産経を嫌がっている」と冗談を言われる始末だった。

そもそも、原告を批判する狙いなど毛頭ない。若くして見知らぬ土地での労働に従事し、戦後は「慰安婦」と「挺身隊」の用語の混同により、元慰安婦と同様に韓国社会から「売春婦扱い」され、疎外される憂き目に遭った。彼女らを揶揄(やゆ)するなど許されないと、記者として、娘を持つ一人の父親として考えている。

インターネットや交流サイト(SNS)で簡単に入手できるニュース素材と「先入観」を組み合わせれば、勇ましいコラムも簡単に書ける時代。なるべく現場の空気に触れ、時間の制約などで現地報道を転電する場合には一歩下がって抑制的に伝える。改めてそう心に刻む一件だった。

【プロフィル】時吉達也

韓国留学後、2007年入社。裁判・検察取材などを担当し、21年春から現職。単身赴任で離れて暮らす2歳の娘に「じーじ」と呼ばれ傷心中。

◆「記者発」は4月から日曜に掲載します。次回は2日の予定です。

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