交流サイト(SNS)の「闇バイト」に手を出し、貴金属店への強盗など6つの罪に問われた男(21)の裁判員裁判が3月、大阪地裁で開かれた。金欲しさの軽い気落ちが、「ルフィ」を名乗る人物の関与が疑われる犯罪グループの捨て駒となる結果を招いた。事前に600万円の報酬を提示されたこともあったが、実際に手にした現金はほぼゼロ。政府が根絶に向けて省庁横断の対策に乗り出しているが、闇バイトの行き着く先は割に合わない「重罪」しかない。
エスカレートした犯行
「楽して金を稼ぎたい」。昨年春ごろ、中村陸哉被告はツイッターで「闇バイト」と検索した。約1年前に土木会社で働き始めたが、長続きしなかった。闇バイトを募集する投稿を見つけて連絡を取ると、「テレグラム」をインストールするよう指示された。
テレグラムは、一定の時間がたつと自動的にメッセージが消える秘匿性の高いアプリ。近年、犯罪グループが多用している。
アプリを通じて、伊藤一輝被告(29)=強盗致傷罪などで起訴=が接触してきた。捜査関係者によると伊藤被告は、「ルフィ」と名乗る人物と連絡を取り合っていたとされる。
最初の〝仕事〟は同年5月2日。京都市内の貴金属店への強盗だった。店に押し入ると、ハンマーで商品ケースをたたき割り、ロレックスの腕時計41点(計約7千万円相当)を奪った。
わずか約2週間で犯行はエスカレートした。同月13日には大阪市北区の路上で、男性2人に催涙スプレーを噴射するなどして襲撃。その2日後には同市浪速区で、パチンコ店員に催涙スプレーを噴射し、現金約100万円が入ったバッグを奪おうとした。
いずれも伊藤被告からの指示。ほかにも実行役がいたが、同じく闇バイトの応募者で面識はなかった。「ほかの人もいるから大丈夫」。その意識が、見知らぬ人に危害を加えるためらいを弱めたという。
反故にされた約束
中村被告は同月下旬に大阪府警に逮捕され、結果的に4つの事件で、強盗致傷や逮捕監禁致傷など6つの罪に問われた。しかし、手にした報酬は重罪と全く釣り合うものではなかった。
貴金属店への強盗で、事前に提示された報酬は600万円。計画通り高級腕時計を奪ったものの、指定された場所に強奪品を持っていくと、突然現れた男に殴られて持っていかれた。偶然とは考え難いが、失敗と扱われて報酬はもらえなかった。
ほかの事件でも数百万円の報酬を示されたが、被害者の抵抗に遭って計画が頓挫したため、報酬はゼロ。約19万円を受け取ったこともあるが移動代などでほとんど消えた。
「利用されただけ」。法廷では、犯罪グループにいいように使われたことを自覚せざるをえなかった。
なぜ犯行を繰り返したのか。闇バイトでは、事前に身分証明書の写真を送るよう指示され、個人情報を「担保」として逃走を防いでいることが多い。
中村被告も同様で、実際に犯罪グループのテレグラムに参加していた未成年とみられる人物が、伊藤被告から「(通っている)学校に連絡する」「自宅にいく」と脅されているのを目の当たりにした。
もっとも、中村被告は恐怖よりも報酬への欲求が上回ったと明かし、「割に合わないという気持ちもあったが、成功して(報酬を)もらえることだけを考えていた」と語った。
「酌むべき事情なし」
24日の判決公判。中川綾子裁判長は懲役10年(求刑懲役12年)を言い渡した。弁護側は、被告の全面的な自供が指示役の摘発につながったことを考慮すべきだと主張していたが、「短期間のうちに連続して犯行に関与しており、動機や経緯に酌むべき事情は見当たらない」と指弾した。
「(インターネット上の)正しい情報と悪い情報を見極め、二度と犯罪に近寄らないようにしてほしい」と説諭した中川裁判長。中村被告は刑務所内で福祉の資格取得のために勉強し、出所後は介護の仕事に就くことを目指すという。(小川原咲)