近ごろ都に流行るもの

「県アンテナレストラン高級化」田舎の特産品も洗練 美食で地方発信

博多和牛はじめ県内各地の食材が詰まった「福岡旬彩小箱」。博多織の蓋㊤もきれい=東京都千代田区の「麹町なだ万 福岡別邸」(重松明子撮影)
博多和牛はじめ県内各地の食材が詰まった「福岡旬彩小箱」。博多織の蓋㊤もきれい=東京都千代田区の「麹町なだ万 福岡別邸」(重松明子撮影)

地方の東京での魅力発信拠点。県によるアンテナレストランが洗練され、高級化や独自性が際立ってきた。県事業の受託は家賃や食材調達での優遇、在京県人の応援など企業側のメリットも大きい。新型コロナウイルス禍もついに明けたこの春。美食のリベンジ消費、接待需要の復活など、期待感も満開の桜のようにふくらむ。

売り上げ3倍の店が完全民営に

皇居の半蔵濠(はんぞうぼり)を臨む一等地。「麹町なだ万 福岡別邸」(東京都千代田区)は1月下旬に開業した福岡県のアンテナレストランだ。大阪発祥で全国展開する老舗料亭「なだ万」(本社・東京都渋谷区)が、公募で委託事業者に選ばれた。

「開店当初は県出身のお客さまに支えられ、現在は近隣の方や企業の接待、外国人まで幅広い利用がある」と、なだ万執行役員の小熊光さん。桜の見頃を迎え客足が伸びている。

昼は1650~6600円と他のなだ万よりも手頃な価格から用意し、夜のコースは8800~1万5400円(サービス料別)。

昼の人気コース、福岡旬彩小箱(4620円)は、博多和牛、福津天然真鯛、福岡有明のり、タケノコ、ナス、春菊、イチゴなど県産食材が詰まった13品が味わえる。「和食で大切な野菜の〝走り〟は西から。福岡だから季節を先取りできる」と小熊さん。

お茶は県南の八女産だ。食中はほうじ茶、食後は煎(せん)茶がサービスされるほか、単品で注文できる玉露(ぎょくろ)(880円)は甘みとうまみが濃厚で、まるで出汁(だし)のよう。焼酎のイメージが強い九州だが、筑後地域を中心に県内56酒造で日本酒が醸造される酒どころだ。大都市の福岡市や北九州市に脚光が当たりがちだが、ひなびた田舎の特産品にも光を当て、県内各地への観光客誘致にもつなげる。

博多美人が案内。八女すだれ、栴檀(センダン)の木材など県特産品が調度に使われている=東京都千代田区の「麹町なだ万 福岡別邸」(重松明子撮影)
博多美人が案内。八女すだれ、栴檀(センダン)の木材など県特産品が調度に使われている=東京都千代田区の「麹町なだ万 福岡別邸」(重松明子撮影)

個室を含め全72席。板場も含めた店舗面積は約270平方メートルの豪華な店構え。

この土地は昭和20年代に県が東京事務所用地として取得し、平成27年まで県民向けのホテル「ふくおか会館」があった。老朽化による建て替えを機に食、文化、観光の発信拠点としてレストランが整備された。

店内には博多人形、大川組子、県産木材の調度や織物、民芸運動の柳宗悦(むねよし)に愛された「飛び鉋(かんな)」模様の小石原焼など伝統工芸品が随所に使われ、一部は販売もしている。また、豊富な県出身タレントを生かしたイベントなども、今後開催する可能性があるという。

奥渋谷の神泉。珍しいドミトリー施設付きのアンテナレストランは徳島県の「ターンテーブル」だ。県産野菜ビュッフェにドリンク付きのランチセットは2千円以内に価格を抑え、昼間1日100人以上の利用もある。夜は阿波牛、阿波美豚、阿波尾鶏の徳島肉づくしプレート(6050円)が人気。訪日外国人の宿泊も増えてきたという。

4月1日の新年度から完全民営化する店もある。

家賃を含め年間約7千万円に上る高額な維持費を理由に昨年末に閉店した、銀座のアンテナショップ「ぐんまちゃん家(ち)」。2階にある群馬県アンテナレストラン「銀座つる」だ。

「県が負担してくれていた家賃を全額支払うことになるが、それでも利益が見込める。アンテナショップが撤退しても客層が違うので、レストラン営業に影響は全く出ていない」と、同店を運営する田園プラザ川場(本社・群馬県川場村)の永井彰一社長。

上州和牛をメインとしたコース料理で平均客単価約2万円の高級店だ。接待需要の復活などで昨年夏前から前年同期比3倍に売り上げが急増し、一蓮托生(いちれんたくしょう)する理由はない。同社が運営する川場村の道の駅は昨年、旅行誌の投票で全国1位に選ばれるなど、過疎地活性の成功事例としても知られる。「レストラン運営も群馬県の縛りがなくなるので、ノウハウを生かし他県の地域とも連携していく」

自力で収益を上げられてこそ、店の営業も持続可能となる。「儲(もう)ける」ことが地方創生の大前提である。(重松明子)



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