コストコを引き寄せた高速道路 山梨、中部横断道で経済効果

高速道路が「コストコ」を引き寄せた。山梨県と静岡県を結ぶ中部横断自動車道が全線開通したところ、工場や物流施設の新設が相次ぐなど大きな経済効果をもたらしている。中でも「半径10キロ以内に人口50万人以上」を出店の目安とする会員制大型量販店、コストコが甲信越地方で初めて進出を決めた。場所は横断道のインターチェンジの目の前だった。

山梨と静岡直結

横断道の山梨―静岡区間は令和3年8月、全線開通した。東京から放射線状に延びるわが国の高速道路のうち、静岡を走る新東名高速道路と山梨を通る中央自動車道を南北につなぐ74キロの区間だ。

全線開通から1年後の時点で、平日の交通量は約8割増加し、南北の人の流れも増えた。帝国データバンクの調査によると、山梨県の沿線企業の売上高は、開通前の平成30年6月時点から令和4年6月時点までで37%増加、従業員数も13%増えた。化粧品大手「コーセー」の工場進出も計画されている。

とりわけ南アルプス市へのコストコ進出は象徴的だった。

ICの目の前に

横断道の全線開通から11カ月後の昨年7月。コストコを運営するコストコホールセールジャパンは南アルプス市と出店協定を結んだ。来年に予定される出店場所は、市が出資し開店7カ月で経営破綻した産直施設「南アルプス完熟農園」の敷地の一部。横断道の南アルプスインターの目の前だった。

「中部横断道があるがゆえに、商圏が広がって可能になった」

協定締結に立ち会った山梨県の長崎幸太郎知事はこう説明する。コストコは出店条件を「半径10キロの人口がおおむね50万人以上」と公表。人口約7万人の南アルプス市はその条件を「到底満たしていない」(長崎知事)が、横断道を活用して静岡からや、中央道を利用して長野県南部からも来場者を想定しての出店判断だった。

地方に無料高速

わが国の地方部はこの20年、高速道路網の整備が進んだ。きっかけは平成15(2003)年、道路公団の民営化に伴って導入された「新直轄方式」と呼ばれる高速道路の建設手法だった。

高速道路会社が通行料を取って建設や管理に充てる方式の一方で、採算が合わないなどの理由で高速道路会社が二の足を踏む路線を実質的に国の直轄で建設する方式だ。原資は税金であり、通行料は無料となる。

以来、人口減少が進む地方では新直轄方式での高速道路建設が進み、無料で利用できる区間も増えた。コストコが立地を予定する南アルプスインターと静岡市を結ぶ約70キロの区間も、4割に当たる約28キロは新直轄方式による無料区間。静岡市清水区からコストコ予定地まで普通車で平日1460円、休日なら1030円で行ける。

南アルプスインターはさらに、高速道路に準じる「新山梨環状道路」の南部区間と接続。同道路は昨年11月、東部区間が一部延伸された。

国土交通省が3月22日に公表した公示地価では、この環状道路沿いに建設予定のリニア中央新幹線「山梨県駅」(甲府市)周辺の商業地、工業地が上昇するなどの効果も確認された。交通アクセス向上による経済への好影響が数字で裏づけられた形だ。

(平尾孝)

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