NHK朝ドラ脚本家が監督に 不寛容の時代へのメッセージ「雑魚どもよ、大志を抱け!」

脚本家で映画監督の足立紳=東京都中央区(石井健撮影)
脚本家で映画監督の足立紳=東京都中央区(石井健撮影)

24日から公開が始まった映画「雑魚どもよ、大志を抱け!」は、足立紳(あだち・しん)監督(50)が、20年がかりで映画化にこぎつけた。

昭和の終わりの7人の小学生が主人公だが、不寛容で息苦しい時代を生きる現代人に「誇りをもって生きているか?」と問いかける人間ドラマになっている。

足立監督は、秋からのNHK連続テレビ小説「ブギウギ」も手掛ける売れっ子脚本家。監督としては、濱田岳と水川あさみが夫婦を演じた映画「喜劇愛妻物語」などの実績がある。

「雑魚どもよ-」は、そんな足立監督が20年以上前に書き上げていた「悪童」という題名の脚本が基になっている。

「悪童」は「弱虫日記」の題で小説にもしたが、映画には、なかなかできなかった。

映画関係者の誰に読ませても「よく書けている」と反応は良好で、師事していた相米(そうまい)慎二監督にも「面白い」とほめられ、「及第点なんだな」と自信はあった。

だが、同時に誰からも「商売にはなりづらい」と指摘された。

小学生7人が、やくざの父親や宗教2世など複雑な生い立ちや家庭環境にもくじけず、懸命に生きようと奮闘する物語なのだ。

「スター俳優が主演する余地もない映画なんて、誰が見るのかということでしょう」

映画「雑魚どもよ、大志を抱け!」ⓒ2023「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会
映画「雑魚どもよ、大志を抱け!」ⓒ2023「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会

仕方なく自主製作の準備を始めたら、「悪童」を読んでいた関係者らが次々と協力を名乗り出てくれて、商業作品として完成にこぎつけられた。

主人公の高崎瞬役には、関西ジャニーズJr.の池川侑希弥(ゆきや=14)。瞬の両親に臼田あさ美(38)と浜野謙太(41)。瞬の親友、村瀬隆造の父親に永瀬正敏(56)が出演する。

「瞬の両親には自分の両親を投影させた。これは、友だちと母についての映画。特別な思い入れがあります」と足立監督は作品を語る。

映画は、瞬たちが自転車で街を駆け抜ける疾走感あふれる場面で幕を開ける。物語が始まる前章のような部分だが、「人間は、本来〝物語がない〟中で生きている。あの20分間の映像こそ、僕がやりたかったこと」と足立監督は顔を輝かせる。

そして物語は始まる。小心者の瞬と腕っぷしの強い隆造は親友だ。この2人の友情を核に、7人が、生い立ちや家庭環境、あるいはいじめなど、さまざまな困難と出合う。

立ち向かうか、逃げるか。決断は容易ではないが、7人は誇り高く生きようと奮闘する。だが、別れのときが訪れる。ラストシーンは、涙なくして見れない。

「こんな子供たちでもプライドをかけて懸命に生きている。大人ならもっと頑張らないとね。そんなことが、現代の大人たちに伝わればうれしい」と足立監督は言う。

この映画には〝立派な人間〟は、一人も出てこない。それは、「本来、僕らは誰もちゃんとした人間なんかじゃないからだ」と足立監督は説明する。

だが、現代社会は、他人に「ちゃんとしていること」を強く求めるようになった。「不寛容な時代だ」と足立監督は嘆く。

「ネットで誰もが意見を述べられ、あけすけな世の中になったはずなのに、なぜ、こうなったのか? 誇りをもって生きていないからだろう」

「誇りを持って生きていますか?」。瞬たちの生き方が、現代人に問いかける。

NHK「ブギウギ」の脚本も控えて忙しい足立監督だが、「本当は、脚本家より監督のほうが楽しい」と笑う。

「独りで、0から1を生み出すのが脚本家。スタッフに囲まれて1を100にするのが監督。脚本家のあの孤独、つらさは誰にも分からない」としみじみ語る。

脚本は書き直しが可能だ。しばしば要望や要求を突きつけられ、内容が変わる。完成した映画の試写会場で、「なんで、こんなにつまらない映画になったのかと一人嘆くのが脚本家」と冗談めかしていう。

「雑魚ども-」に関していえば、「悪童」や「弱虫日記」を知り合いの脚本家、松本稔に託し、改めて脚本化してもらったという。

松本には編集段階で映画のチェックも頼み、忌憚のない意見を求めた。すると「厳しい意見がガンガンきた」と苦笑いするが、「それが言い合える脚本家と監督の関係って、なかなか築けないものだから、ありがたかった」と語る。

「雑魚どもよ-」という題名は、ふざけてつけた。だが、映画ができてみたら、なんだか随分まじめに見える。

「説教臭いですよね? こんなことになるなんて、僕も年を取ったのかな。でも、4、5年後に見返したとき、『ああ、子供たちがこんなに頑張っているんだから、僕も頑張ろう』と思える映画にはなった。やっぱり、この映画は、僕のような大人にも見てほしいですね」(石井健)

「雑魚どもよ、大志を抱け!」は全国順次公開中。2時間25分。

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