話の肖像画

演出家・テリー伊藤<23> 素人を有名人にする秘訣は「愛」

名実ともに「天才ディレクター」になった
名実ともに「天才ディレクター」になった

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《平成4年から放送が始まったバラエティー番組「浅草橋ヤング洋品店」(テレビ東京系)も伝説を残した。通称「浅ヤン」。「モーニング娘。」を生み出したオーディション番組「ASAYAN」の前身で、一世を風靡(ふうび)した。そもそも番組名からして一風変わっていた》


浅草橋、ヤング、洋品店。3つともダサい(笑)。ダサい言葉を3つ重ねると面白いかなって思ったんですよ。最初はファッションの企画も多かったんです。当時は「コム・デ・ギャルソン」とか「イッセイミヤケ」とか、そういうのがカッコイイといわれてたんだけど、そこにお笑いの要素も入れたんですよ。安い商品のCMはあえてダサく作ったりしますでしょ。そんな感覚です。


《もともとファッション番組だったが、有名中華料理店の総料理長が素性を隠して町の中華料理店で修業し、最後に正体を明かす「お料理水戸黄門」など、ドキュメントバラエティー要素の強いコーナーが増え、人気に火が付いた。ちなみに、この総料理長こそ「炎の料理人」と称された周富徳さんだ》


たまたまメシを食いに行ったんですよ。「赤坂璃宮」の総料理長ですから偉かったんだけど、俺たちが行くと、周さんはテーブルから全然離れない。俺、心の中では「なんだこいつ」って思ってたの。「早く調理場戻って料理作れよ」って(笑)。最初はそんなことを思ってたんだけど、あまりにグズグズといるから、このおっちゃんおもしれえなと思って、「ちょっと(番組に)呼ぼう」ってことになったんです。周さんに「誰か面白い人いない?」って聞いて紹介してもらったのが(名物コーナー)「中華大戦争」の金萬福さんなんですよ。


《商品買い付け用に常に多額の現金を持ち歩き、何度も強盗やひったくりの被害にあった家電製品の「安売り王」も出演。ユニークなキャラクターが人気を呼んだ》


城南電機の宮路年雄社長も面白い人でしたね。でも素人の人の場合、この人をどういうふうに生かしてあげるか。そういうことを考えることが大切だと思ってます。そこで何が一番大事かというと、それは、その人をどれだけ好きかなんですよ。

結局、その素人の人を愛するプロセスがないままいきなり企画をやっても、その人の人間性を引き出せない。「画(え)」に差が出るんです。演出家にとって大事なのは、その人をどれだけ愛しているかだと思うんですよ。

素人の人はプロではない。どんな企画にすれば、さらに面白くなるかということを考えないといけません。宮路社長でいえば、宮路社長が持ち歩いているお金を俺たちが盗むといった企画を考えるわけです。宮路社長のロールスロイスのエンブレムに綱をかけて綱引きしたりね(笑)。

「元気(天才・たけしの元気が出るテレビ!!)」だったら、ソウル五輪のレスリング金メダリストの小林孝至さんね。小林さんといえば、金メダルをどっかに忘れてきちゃったというのが有名じゃないですか。そしたら番組で、もう1回、金メダルを盗んでやれみたいなことをやるわけです(笑)。


《番組出演がきっかけとなり、一躍有名になった〝一般人〟は数知れない。それまでの常識にとらわれない奇抜な企画に若者は共鳴し、番組は高視聴率を記録。最初は自ら名乗った「天才ディレクター」という肩書もやがて定着していく》


インタビューを受けるときに、「天才ディレクターのテリーさんですよね」って向こうから言われるようになったんですよ。面白いなって思いましたね。自己演出ってこんなふうにしていくのかって。「世紀の何とか」とか、いろいろあるじゃないですか。そんなのと同じですよ(笑)。(聞き手 大竹直樹)

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