国軍が武力で全権を掌握し2年が経過したミャンマーで一部の経済指標が好転している。世界銀行が発表した2022年度(21年10月~22年9月)の実質国内総生産(GDP)の成長率は3.0%。前年度のマイナス18.0%から大幅な改善となった。コメなどの輸出が堅調で、今年度も最大で4%を見込む。
しかし、これらはまやかしにすぎない。輸出が増えているのは、外貨獲得を急ぐ軍政が国内向けの物資を輸出に向けているからで、通貨チャットはクーデター前の半分以下に下がっている。金などの貴金属を採掘し手っ取り早く外貨に換えるための乱開発は各地で行われ、早晩行き詰まるのは明らかだ。
国内経済は瀕(ひん)死(し)の状態だ。国連人道問題調整事務所によると、内戦や治安の悪化から家を追われ支援が必要な避難民は少なくとも450万人以上いる。抜本的な対策がなければ年末には人口の約3分の1に当たる1760万人が危機的状態に陥るとする。比較的産業の集積するヤンゴン管区でも、4人に1人が1年以上も給与収入がない状態が続いている。
生活の糧を失った住民の一部は最大河川エーヤワディー川に出て、浮遊する空き缶やプラスチックを拾う作業に従事している。リサイクル業者に売って現金を得るためだ。おかげで川がきれいになったと皮肉のような話が伝えられている。農村では戦闘による巻き添いを恐れ、離農する人が続出している。生産量そのものは確実に減っており、輸出もいつまで続くか分からない。
こんな状態でも、国軍と前最高指導者のアウンサンスーチー氏派の国民防衛隊(PDF)の双方は戦闘を止めようとしない。意の通りに動かない住民に対しては、スパイの汚名を着せ殺害するなど行動はエスカレートする一方だ。つけの支払いはいつも、社会の底辺にある彼らに向かう。
(在バンコクジャーナリスト・小堀晋一)
=おわり