井崎脩五郎のおもしろ競馬学

WBCの秘められた視聴率

もし馬主になって、その馬がダービーに出走したら-。

そりゃあ、競馬場に行って応援するだろうなあと思う。

ところが、そうでない人もいるのである。「心臓がドキドキして体に悪いですからね。できれば、誰もいないところでレースが終わるのを待ちたいです」

そう語ったのは、臼田浩義さん。スペシャルウィーク(ダービー馬)、ハイアーゲーム(ダービー3着)、リーチザクラウン(ダービー2着)、コイントス(有馬記念3着)、チューニー(オークス2着)などのオーナーである。

「もう、スタートが近づくと息が詰まりそうになって苦しいんです。競馬場のスタンドから抜け出して、駐車場の車の中で、ラジオのボリュームを最小にして中継を聴いていたことが何回もあります」。こういう繊細な人もいるのだなあと思ったものだ。

東京競馬場のパドック脇に銅像が立っている、トキノミノルという歴史的名馬がいる。10戦10勝でダービーを制覇。そのダービーの17日後に破傷風で急死。オーナーである、映画会社「大映」の社長、永田雅一(まさいち)さんは、ダービーのとき、あまりの緊張に耐えられず、トキノミノルの無事を祈って、最終コーナーからゴールまでずっとお題目(南無妙法蓮華経)を唱えていた。これは有名な話。普通に見ていられないのだ。

だから、大変な盛り上がりを見せた今回のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)についても、視聴率ならぬ「秘聴率」ということが言われている。

秘められた視聴率というわけだ。

子供や孫のような大谷君や村上君を応援したいのだが、脈拍が速くなるのが分かっているので、テレビ中継は見ず、「勝ったよ」「優勝したよ」と聞いてから、スポーツニュースをあさるように見ている人たち。そういう人たちがたくさんいたのではないかというのである。

視聴率と秘聴率を足した「関心度」は、WBC史上、今年が最高かもという声を聞いた。(競馬コラムニスト)

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