化粧品業界で新技術を活用した新たな取り組みが進んでいる。CG(コンピューターグラフィックス)で作られた「バーチャルヒューマン」のモデル起用やAI(人工知能)技術を取り入れた無人店舗の展開などで、業界の未来を踏まえ顧客へのアピールを強化している。福岡の製薬会社でも新たな試みが行われた。
新日本製薬(福岡市)は中国市場でのスキンケア商品の認知度拡大に向けて、中国の若者に人気のバーチャルヒューマン「Ria(リア)」をブランドアンバサダーに起用した。
Riaは日本の制作会社がCGで作ったモデルで、人間に近い肌質や表情を持つ。同社によると、中国ではインターネット普及後に生まれた「Z世代」を中心にメタバース(仮想空間)やバーチャルヒューマンが浸透し、Riaは独特の世界観とミステリアスな雰囲気が支持され、中国版インスタグラム「RED」で約1万4千人のフォロワーがいる。Riaが商品と写った写真の使用やブランドサイトでの登場で若者への浸透を図るほか、商品の感想をRiaが投稿することも検討している。
日本でもスキンケアブランド「SK―Ⅱ」がバーチャルモデル「imma(イマ)」を使ったCMを作成。immaはインスタグラムのフォロワーが40万人を超える支持を集めている。また大手アパレル「GU」もバーチャルヒューマンの「YU(ユウ)」をモデルに起用するなど、化粧品やファッションの分野で徐々に広がっている。
新日本製薬はバーチャルヒューマン起用のメリットについて、ブランドイメージに合わせた人物の作成が可能なことや、実在のモデルでは本人がトラブルを起こした場合にブランドイメージを損なう可能性があることを挙げる。
広報担当者は「現実と現実ではない違和感が興味を持ってもらえる。若年層を中心に新しい技術を求める傾向が強くなり、現実の人間とは異なるバーチャルヒューマンの影響力はますます拡大していくと考えている」と語った。
一方、三省製薬(福岡県大野城市)は昨年発売を開始した色づき美容液の販売促進として、3月に福岡市中央区の商業施設「ソラリアプラザ」で無人店舗の実証実験を行った。
施設を運営する西日本鉄道とセンサーやカメラなどの技術を提供した日立製作所と連携して実施した。AI技術を使い、店員のアバター(分身)が客の好みや悩みに合う商品を提案するほか、客が手に取った商品を分析するセンサーを設置。遠隔地にいる担当者とオンラインで相談ができるリモート接客や、生体認証決済の模擬体験ができるコーナーも設け、実際の購入はEC(電子商取引)サイトを案内した。
百貨店の美容部員に代表されるように化粧品販売は長く対面販売が基本で、顧客にあわせた接客が重要だった。無人店舗でのアバターによる接客はそうした伝統を継承しつつ、人手不足を補い、人件費の削減にもつながる。
担当者は「無人店舗は繁忙期の人手が足りない時期でも出店ができる。実際の店舗設置より低いコストで他の地域に展開することも可能で、活用を前向きに検討したい」と語った。(一居真由子)