ポトマック通信

ヤドカリ人生の前途

米南部バージニア州アーリントン郡北15番通り。前回の駐在時に一軒家を借りて家族と暮らしていた懐かしの場所だ。今回はアパートで単身生活の筆者に同情してくれるのか、当時の隣人がたまに夕食に誘ってくれる。そのたびに話題に上るのは近所の住民が次々と家を売って引っ越す話だ。

先週末は、筆者のすぐ隣に住んでいた陸軍勤務の夫婦が退職を機に東部デラウェア州に移り住んだと聞いた。「家を売りに出し2日後に買い手が決まったそうだ」。食事に招いてくれたジムさんは少しうらやむ表情を浮かべて話した。

米国人は転・退職や子供の成長など節目節目で家を住み替える。大きな家、より快適な場所に移り住む〟ヤドカリ人生〟を支えるのは中古住宅市場の活況だ。

コロナ禍で在宅勤務が普及し、遠方へ転居することも容易となった。天然ガス市場の代理店に勤めるジムさんも、温暖な南部ノースカロライナ州に引っ越す計画を膨らませてきた。だが、前途に暗雲が漂い始めた。連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ政策の影響でローン金利はジワジワ上昇し住宅価格指数は下落。シリコンバレー銀行破綻の影響も危惧される。

「この家、いつ売るの?」「‥」。筆者の無遠慮な質問で晩餐(ばんさん)の空気が険しくなった。元隣人のヤドカリ計画が狂わないといいのだが。(渡辺浩生)

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