国土交通省が22日に公表した令和5年の公示地価では、観光地が全国的に新型コロナウイルス禍からの力強い回復をみせた。国内の観光客が多く訪れ、今後は訪日外国人観光客(インバウンド)の戻りも期待されている。一方で温泉地は不調で軒並み下落となった。温泉地は主要な顧客のシニア層の客足が十分に戻っていないことも影響したとみられ、いかに幅広い世代を取り込めるかが回復のカギとなる。
今回の公示地価で国内有数の観光地の動向を見ていくと、東京・浅草は上昇幅が前年比8・8%、京都・祇園は6・3%となったほか、前年まで下落していた岐阜・飛驒高山(1・8%)や広島・宮島(3・2%)も上昇に転じた。
多くの観光地で国内客が戻り、店舗事業の回復やホテル開発の再開などが進行。今後は多くのインバウンドが訪れるとの予測もプラス要因になった。
ただ、温泉地の現況は厳しい。登別(北海道)▽鳴子(宮城県)▽草津(群馬県)▽指宿(いぶすき)(鹿児島県)-など、名だたる温泉地が軒並み前年比で下落となった。都心から2時間以内と日帰り圏内の日光(栃木県)すら例外ではない。
国交省の担当者は「コロナ禍で行けなかった旅行を久々にするに当たり、温泉地といってもさまざまな観光を楽しめるところが選ばれたのでは」と分析する。
前回調査の時点で5・2%上昇していた国内有数の温泉地、熱海(静岡県)は今回も前年比11・7%上昇と好調だ。
熱海市によると、以前はシニア世代の訪問が多かったところ、東日本大震災後の平成25年から官民挙げてより若い世代の誘致に向けた街のブランド化を推進。徐々に若者向けの飲食店なども増え、今では訪れる観光客は40代以下と50代以上の割合がほぼ半々になった。街は活性化して大型ホテルなどの建設も相次ぎ、相乗効果で商業店舗の出店も続いているという。
最近でも多くの店舗に行列ができるほど盛況で、市の担当者は「温泉地というより街全体を楽しんでもらえるリゾート地になった。来た人も温泉に入ることは決してマスト(必須)ではない」と現状を説明する。
一方、有名温泉地を擁する北関東の自治体担当者は「もともと客層はシニア層や外国人が多かった。コロナ禍が明けてからも需要の戻りは鈍かったため、もろに影響を受けてしまっている」と話している。(福田涼太郎)