《日航機「よど号」を乗っ取り、北朝鮮に渡った元共産主義者同盟赤軍派メンバーと遭遇したテリーさん。若林盛亮(もりあき)容疑者=国外移送目的略取などの容疑で国際手配=とは日本のテレビ番組のことなどで談笑したが、その中に気になる文言があった》
彼は「どういうルートで来たの?」って聞いてきたので「名古屋空港からチャーター便」って言ったんです。すると彼は「それ高いよねぇ」って。「今度、俺んとこ直接電話してよ。もっと安く来られるルート、いろいろ紹介するから」って言うんです。
そのころってまだ、拉致問題が表になっていなかったんですけど、あれって、もしかしたら次回、そのルートで北朝鮮に行っていたら、俺も拉致されて帰ってこれなくなっていたかもって思うんですよね。
《産経新聞が初めて拉致問題を報じたのは昭和55年。だが、国民が拉致を認識するまでには20年近い開きがあった。横田めぐみさんの拉致が明らかになったのは平成9年。テリーさんが北朝鮮を訪れた4年後のことである。よど号グループは否定しているとされるが、元共産同赤軍派メンバーや妻らによる「欧州ルート」の日本人拉致事件も明らかになっている》
拉致がなければね、あのあともどんどん北朝鮮に行けたんだろうけどね。
彼(若林容疑者)はイメージでいうと総合商社に勤めてそうなエリートサラリーマンですよ。顔もいいし、やせてるし。「こんなとこ泊まんないで、自分たちの住む一軒家に来なよ」って、それも言われましたね。「なんで僕のこと知ってるの?」って聞いたら、「知ってますよー。『ニュースステーション』(テレビ朝日系)出てんじゃん」って言うんです。
僕、確かにそのとき、久米宏さんと一緒に出てたんですけど、「北朝鮮で『ニュースステーション』見れるの?」って聞いたら「見れる、見れる!」って言ってましたね。
《お土産として並んでいた額縁入りの刺繡(ししゅう)がテリーさんの心をとらえた》
ミッキーマウスが描かれてたんですよ。金正日さんもディズニーランドが好きなのかなって。エレクトリカルパレードだって見たいのかも分からないですよ。そんな本音を言わせることがベールに覆われてきた北朝鮮の謎を解明できる道だと思うんです。
独裁政権を長く維持するためには、いかに自分が素晴らしい人物なのか、偉大なのか、何が何でも自分の長所を言い続け、人民に徹底して思い込ませる。これしかないと思うんです。
でも自分で自分のことをほめたたえても効果は薄いんです。やっぱり、第三者に言わせないといけない。それには演出が必要なんですよ。俺はこれを「奥さまラーマ状態」って名付けたんです(笑)。
《誰もが知るロングセラーのマーガリン「ラーマ」。かつては街頭インタビュー形式のテレビCMが流れていた。リポーターが団地や商店街などに出没。主婦らに商品を試食してもらい、「とってもおいしい」「好きな味」「大好き」といった感想を聞いていく。昭和世代にはなんとも懐かしいCMだ》
北朝鮮ではおそばに仕える側近らが金正日さんの長所を語るわけです。これもCM効果なんですよ。第三者に言わせることで「あの人は偉大なんだなあ」ってなるわけです。
国中でそういう演出をしてるんです。有名な逸話が山ほどありますよね。それを側近を通じて伝説として人民に知れ渡るようにしているわけです。(聞き手 大竹直樹)