商業地の「脱コロナ」傾向が鮮明になった令和5年の公示地価。新型コロナウイルス禍からの回復で、東京圏をはじめ全国的に繁華街に人が戻り、オフィス需要も底堅さが目立った。ただ、三大都市圏の商業地の上昇率をみると東京圏(前年比3・0%)、名古屋圏(3・4%)に比べて大阪圏(2・3%)はやや回復が鈍い。大阪圏全体の地価を引っ張り上げていた訪日外国人観光客(インバウンド)の客足の戻りが限定的なためとみられ、回復力には地域格差も出ている。
オフィス街が近く飲食店が多い東京都港区の新橋。会社帰りのサラリーマンなどでにぎわい、コロナ禍前の人出を取り戻している。新橋駅前広場近くの調査地点の地価は、昨年の1・1%下落から2・1%上昇に転じた。都心の代表的な繁華街の歌舞伎町(東京都新宿区)も、昨年の横ばいから1・0%上昇となった。国土交通省の担当者は「コロナ禍で大幅に落ち込んでいた地点で徐々に回復が進み、プラスに転じる地点が拡大した」と説明する。
都心部を中心にオフィス需要も堅調だ。最も上昇率が高かった都道府県は福岡県で5・3%上昇。県庁所在地の福岡市は、天神地区や博多駅周辺の高水準のオフィス需要が地価を引き上げた。横浜市西区のみなとみらい地区も、企業やホテル、大学の進出などが進んだ効果で13・5%の大幅上昇となった
オフィス需要について、不動産サービス大手、ジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)の大東雄人シニアディレクターは「コロナ禍で社員の出社頻度が減ったことから、余剰床の見直しが進んだ」と指摘。その分、浮いた費用で「面積が狭くてもアクセスが良好だったり、ビルが環境に配慮した仕様になっていたり、新たなニーズに対応できる物件に需要が集中している」と説明する。
一方、かつて訪日客の急増で国内外の投資マネーが集まり、地価が急騰した大阪の繁華街・ミナミはコロナ禍で状況が急変。昨年の地価公示でも多くの地点が前年比で10%超の下落幅を記録していた。今回は持ち直したが、訪日客が特に集中していた道頓堀川に面した地点は横ばい、黒門市場周辺の地点は今年も1・4%の下落となった。コロナ禍前のインバウンド流入の効果が大きかっただけに、国交省の担当者は「それが失われた影響が他地域より大きく出ている」と分析した。
大阪、関西が経済発展の起爆剤として期待する2025年大阪・関西万博も、地価に対しては目立った効果を及ぼしていない。国交省によれば、万博が開催される大阪市此花(このはな)区や周辺の湾岸地域、会場が建設される夢洲(ゆめしま)を結ぶ大阪メトロ中央線の沿線も「他地域と比べ、特段の上昇は観測されなかった」(担当者)という。(浅上あゆみ)
地価公示 地方住宅地28年ぶり上昇 全国平均プラス1・6% コロナ前に「回復顕著」