国土交通省が22日発表した令和5年の公示地価によると、外国人観光客が戻りつつある大阪市中心部の繁華街「ミナミ」でも、多くの地点で変動率は上昇に転じた。ただ、訪日客の戻りが限られるなか、回復が鈍い。7年の大阪・関西万博開催による地価への目立った影響もみえてこない。
ミナミは新型コロナウイルス禍による訪日客需要消失により、3、4年の公示地価で商業地の全国下落率ワースト10のうち8地点を占めていた。コロナ禍の影響が薄らぎ、5年は、ミナミの地点はワースト10から外れたが、地元ではまだ、回復の手応えは得られていないようだ。
「客の入りはまだコロナ禍前の6割程度。中国本土からの訪日外国人(インバウンド)が来ていないからね」。3月中旬、ミナミ中心部にある心斎橋筋商店街の土産物店店員は、通り過ぎる観光客を見つめながら言った。客足は回復しつつあるが、行き交うのも困難なほどの人出があったコロナ禍前とは明らかに異なる。シャッターを閉めたままの店舗も少なくない。
一方で、ミナミにある戎橋筋(えびすばしすじ)商店街振興組合の菊地正吾理事長は「コロナ禍前の地価高騰は、ミナミが本来目指してきたまちづくりの姿とは程遠かった。地に足をつけて地域の価値向上を目指す必要がある」と戒めるように話した。
令和7年の大阪・関西万博も、現段階では地価に対しては目立った影響が見えていない。不動産サービス大手、ジョーンズ・ラング・ラサール(JLL)関西支社の山口武リサーチディレクターは「万博は半年間のイベントで、開催により湾岸地域に居住する人が増えるわけでもなく、開催地やその周辺の地価上昇には寄与しないだろう。ただ、ほかの観光地にはプラスになる」と語る。
今回の公示地価では、大阪圏の商業地地価の上昇率が前年比2・3%と、東京圏(3%)、名古屋圏(3・4%)と比べ回復ペースが鈍い実態が明らかになっている。国交省の担当者は「コロナ禍前は大阪都心部などへのインバウンド流入が、大阪圏全体の商業地の地価を引っ張り上げていた。それが失われた影響が他地域より大きく、回復が遅れている」と指摘する。(黒川信雄)