国立競技場などのスポーツ施設が集まる明治神宮外苑(東京都新宿区など)で22日、神宮第二球場の解体工事が始まり、外苑一帯の再開発事業が令和17年度の完工に向けて動き始めた。スポーツや文化活動、憩いの場として都民に親しまれてきた一帯は今後、スポーツ施設群を刷新し、商業施設を含む高層ビルが立つ新しいエリアに生まれ変わる。だが、都による事業着手の認可から1カ月余りがたった今もなお、環境変化や自然破壊を懸念する一部の住民や団体の反対が続いている。
プロ野球ヤクルトの本拠地、明治神宮野球場に隣接し、高校球児らが熱戦を繰り広げてきた神宮第二球場は、今月半ばから周りを白いフェンスで囲われ、低木の伐採など解体に向けた準備が進められていた。本格的な解体は22日にスタート。球場には近づけなくなっているが、周囲では普段通りジョギングや散歩をする住民らの姿が見られた。
神宮外苑は大正期、明治神宮(渋谷区)の関連施設として設けられ、現在はエリア内に両球場のほか、東京五輪・パラリンピックに向けて建て替えられた国立競技場や秩父宮ラグビー場などのスポーツ施設、聖徳記念絵画館などの歴史的建造物がある。
再開発では両球場と秩父宮ラグビー場を解体した上で野球場とラグビー場、広場を新設し、さらに商業施設が入る高層ビルを新築。約300メートルにわたって連なる人気スポットのイチョウ並木は保存する。現行の神宮球場と秩父宮ラグビー場がいつまで使用されるかは未定としている。
都都市整備局などによると、都が五輪開催後を見据えて平成30年に策定した「神宮外苑地区まちづくり指針」を受け、明治神宮と三井不動産など4者が再開発の議論を開始。今年2月17日、都が事業の着手を認可していた。
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だが、再開発を巡っては、周辺住民や環境団体などが今も抗議活動を続けている。敷地内の樹木の伐採による環境破壊や、景観の変化などが再開発に反対する理由だ。
再開発では敷地内にある743本の樹木を伐採し、新たに837本を植える計画だが、文化遺産保護を提言する「日本イコモス国内委員会」は、「風致地区における伐採は法令により厳しく制限されている」などとして、計画そのものの見直しを求めている。
再開発に反対してきた米国人コンサルタント、ロッシェル・カップさんも「なぜ建て替えではなく改修を検討しないのか。都内のオフィス不動産は過剰供給の状況で、この場所に高層オフィスビルを建てる必要性はあるのか」と憤る。
周辺住民ら約60人は2月28日、都による事業認可の手続きは違法だとして、認可の取り消しと1人当たり1万円の慰謝料を求め、東京地裁に提訴。3月8日には、元日本大学教授らが小池百合子都知事らに対し、環境影響評価の継続審議を求め要請書を提出した。
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周辺住民の憩いの場ともなってきた神宮外苑だけに、再開発にあたっては住民の理解が不可欠だ。イコモス理事の石川幹子氏は「このような重大な案件は本来なら都民による長い時間をかけた議論が必要だ」と話す。
ただ、10年以上の工期をかける大型工事は今後も計画通り進められる見通しだ。小池知事は17日の記者会見で「(緑を増やす)取り組みやまちづくりの意義について情報発信するように改めて指示している」と話し、「これからもスポーツを楽しむ場であり、緑を楽しむ場になってくれればと思っている」と期待を込めた。(外崎晃彦)