米国の地で10度、宙に舞った。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で3大会ぶりの世界一奪還を果たした日本代表の栗山監督は「選手たちが本当にうれしそうな顔したので、それがすごくうれしかった」と感慨深げに話した。
2021年12月に就任。短期間でチームを作るには〝最強メンバー〟の集結が必須だった。最も期待されていたのは、日本ハムの監督時代に投打の「二刀流」で成長させた大谷(エンゼルス)の招集。就任前は「宝物を壊してはいけないという怖さがあった。翔平とは2度と野球をやりたくない」とまで話していた〝教え子〟と、再びタッグを組んだ。
参加を決めた大谷は「誰が監督でも出たいという気持ちは前向きだったと思う」としながらも「自分のことを知ってくれる監督が、指揮を執ってくれるかは、選手にとって大きい」と絶大な信頼を寄せた。
固定観念にとらわれず、日本にルーツがある選手にも声をかけた。その中で選ばれたのが、日本人の母を持ち、米国で生まれ育ったヌートバー(カージナルス)だった。日系人初の日本代表はすぐにチームになじみ、日本でも大人気に。不動の1番打者として攻守で躍動した。
チーム結成後、指揮官は積極的に選手と対話した。吉田(レッドソックス)は「常に選手を気に懸けてくれていた。親身になって一人一人、丁寧に対応してくれた」と明かす。大会中に右手小指を骨折しながら出場した源田(西武)は「選手の話を受け止めてくれた」と感謝した。
指揮官は「いるメンバーで一番勝ちやすい形を見つけるのが仕事」と繰り返し口にしてきた。「試合の日も、監督が一番何もしない。コーチやスタッフ、選手が命懸けでやってくれて、こういう結果になった」。選手の能力を最大限に生かすマネジメント力で、世界一に導いた。(神田さやか)