卒業式で答辞を読み上げたのは不登校で一時は学校に通えなくなっていた生徒。見守る両親はわが子の成長に涙ぐんでいた。香川県三豊市に開校した高瀬中学校夜間学級で初めての卒業式が行われた。1年数カ月の不登校を乗り越えて昨年10月に転入した中川大貴(ひろき)さん(15)は答辞の中で「学校に行かなかった頃は自分の卒業式など想像もできませんでした。何もできない私を学級の皆さんは温かく迎えてくださり、何かと声をかけてくれました」とりんとした様子で語った。
令和4年春に開校し、夜間中学として初めて不登校特例校に指定された高瀬中学校夜間学級。第1回卒業式の卒業生は中川さん1人だった。
佐藤浩二校長は式辞で「立ち止まっていた時間も長い人生の中ではほんの一部。今後に生きてくることもある」と話した。
来賓として式に出席した山下昭史市長は「中川君には本当にお礼を言いたい。周りの大人たちは本当にいろいろなことを学ばせていただいた。家族や在校生、先生はこれからもずっと仲間であり、いつでも応援している」と言葉をかけた。
在校生代表の送辞で石尾彰さん(55)は「私たちは何度も行き詰まったが、この夜間学級にたどり着いた。つらいときは夜間学級の日々を思い出してほしい」と語り、初対面のときに歌った「見上げてごらん夜の星を」を在校生、教職員全員で歌って祝福した。
在学中、中川さんはeスポーツへの興味からパソコンに詳しくなれるよう勉強したいと高校進学を考えるように。希望校を選び、県内の通信制高校へのオンライン通学が認められた。中川さんは式の後、「みんなに祝ってもらってうれしかった。もう来れないのはさみしい」と話していた。
わが子の成長ぶりに両親も感激した様子で、父親の真治さん(54)は「人前が苦手なのに1人だけの卒業生で緊張したと思う。シャキシャキと答辞を読んでいる姿を見て感動し放しだった」、母親の加代さん(50)は「夜間学級でなかったら卒業式に出席していなかった。証書をもらう姿にうれしくて涙が出た」と感極まっていた。
この日は、体験入級中の中学1年生2人とその保護者も参加。2人は「自分がこの学校に通って勉強やいろんな活動をして卒業できるイメージができた」と話していたという。
高瀬中学校夜間学級の城之内庸仁(のぶひと)教諭は中川さんの卒業に「頑張って通った学校の卒業式、証書の価値は大きい。不登校の人に学びの場所を提供する役割に、夜間中学はマッチしていると思う」と話していた。
新年度は10~80歳代の在校生10人中、2、3人が2年生進級を希望しており、新入学予定者7~8人のうち体験入級中の現役生2人は2年生に転入する見込み。
不登校特例校として、今後もほかの中学校に在籍する不登校生徒を受け入れていく予定だが、1年目の経験を踏まえ、生徒の状況に応じた転入時の指導方針・計画を整備していくのが今後の課題だという。(和田基宏)