野球の神様に導かれたようだった。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝の米国戦。日本1点リードの九回2死走者なし、抑えでマウンドに上がった大谷が対峙(たいじ)したのは、エンゼルスの同僚・トラウト。「最後の最後で対戦するとは思わなかった」。1球1球、力のこもった球を投げると、最後はスライダーで米大リーグを代表する打者のバットに空を切らせた。「間違いなく今までの中でベストな瞬間」。日本が誇る「二刀流」はグローブも帽子も放り投げ、捕手の中村悠平(ヤクルト)と抱き合った。
終わってみれば、大谷による大谷のための大会だった。1次リーグ初戦の中国戦で〝開幕投手〟を務めると、その後も看板直撃の本塁打をはじめ、三盗にセーフティーバントと、大会を通じて暴れ回った。そして、米メディアが「ハリウッド映画のよう」と報じた優勝シーン。まさに野球の魅力を存分に表現した。
プレーだけではない。準決勝のメキシコ戦では1点ビハインドの九回、先頭打者として二塁打を放つと、塁上で両手を振り上げ、ベンチを鼓舞。村上のサヨナラ二塁打を呼び込んだ。
スター選手が居並ぶ米国との決勝前の円陣では、「僕からは1個だけ。憧れるのをやめましょう。憧れてしまっては超えられない。僕らは超えるために、トップになるために来た。憧れを捨てて、勝つことだけを考えていきましょう」。精神面でも、日本を引っ張った。
多くの期待を背負いながらも、WBCを心の底から楽しんでいた。「テレビゲームをしている楽しさではなく、プレッシャーも込み。人生の中でそうそう経験できる舞台ではない」。2018年に海を渡って5年、エンゼルスがプレーオフ進出すら果たせない中、一発勝負の短期決戦に飢えていた。まして、WBCは少年時代から夢見てきた舞台だ。
「みんなが一つになったこの期間、本当に楽しかった。(次回大会も)出たいですね」
漫画のような出来事を次々と実現させてきた「二刀流」は、名実ともに「世界一の選手」に。目頭をぬぐったのは、汗か涙か。(神田さやか)