漫画でもやり過ぎと言われそうな至高の舞台-。野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝戦、世界一を懸けたマウンドに最後に立ったのは二刀流、大谷翔平(28)=エンゼルス=だった。対するのはメジャーMVP3回、普段は大谷のチームメートでもあるマイク・トラウト=同。大谷が常々、尊敬を口にする「世界一の野球選手」に投じた渾身(こんしん)の力を込めた一球に、日本中がくぎ付けになった。
9回裏。大谷のスライダーにトラウトのバットが空を切る。大谷が帽子とグラブをほうり投げ、雄たけびを上げた。
「#優勝の瞬間」。日本のツイッター上で直後にトレンドになった。歴史的シーンの目撃者が、あちこちから歓喜の様子を動画やメッセージで投稿した。
この日はウイークデー。自宅でテレビにかじりつくわけにはいかない。観戦場所も、文字通り全国津々浦々となった。
午前中の練習を終えた部員がスマートフォンを手に部室に駆け込んでくる。WBCの中継を映した2台のスマホ画面を、みんなで固唾をのんで見守る。
ここは山口大(山口市)のアメリカンフットボール部。WBCの熱狂は競技の垣根もやすやすと超えた。
練習中もコーチがスマホで情報収集しながら、決勝の途中経過を部員に伝えていたという。「結果が気になって、あまり練習に集中できていなかった」と同大1年のマネジャーの女子学生(19)が明かす。
優勝が決まると部員らもガッツポーズ。「日本中がこんなにわき上がるような試合を見せてくれて、最高の侍ジャパンだった」
世界で戦うプロサッカー選手にとっても、目が離せない一戦だった。
サッカー専門紙「エルゴラッソ」の下薗昌記記者によると、大阪府内で午前中に行われていたJ1ガンバ大阪の練習が終わったのはちょうど最終回を迎えたころ。複数の選手たちが、スマホを持っていた別の記者のところにダッシュで駆け寄ってきた。「今まで見たことのない光景で何事かと驚いた」(下薗さん)。
サッカー日本代表に選出されたこともある鈴木武蔵選手が記者のスマホを食い入るように見つめる。「行け、大谷」と叫び、優勝が決まると「すげー!」と歓声を上げた。
海外でもプレー経験のある食野(めしの)亮太郎選手は「日本人で世界で活躍しているアスリートはなかなかいない。大谷さん、すごい」と感心しきりだったという。
病院の待合室も即席のパブリックビューイング会場と化した。
横浜市内の病院では2階の外来待合室のテレビに大勢が見入った。「普段は5人程度しか待合室にいないのに、WBC放映中は患者らが40人ほど集まって、立ち見も出ていた」と、妻に付き添って来院した同市の自営業男性(56)が語る。優勝の瞬間は列島各地と同様、待合室にも拍手喝采が沸き起こった。