千葉「正論」懇話会(会長・木村理千葉銀行顧問)の第78回講演会で、松戸市出身で東大先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠氏が、「ロシア・ウクライナ戦争と日本の安全保障」と題し、熱弁を振るった。ウクライナの情勢については関心が高く、両国の事情に詳しい小泉氏の話に、参加者は真剣なまなざしで聞き入っていた。
ロシアによるウクライナ侵略が注目されている要因について小泉氏は、「ウクライナは実は大国。旧ソ連でナンバーワンのロシアとナンバーツーのウクライナががっぷり組んで殴り合っている巨大な戦争だ」と説明。「第二次世界大戦後、70年前に朝鮮戦争が終わってからはこのクラスの戦争はなく、久々に人類は激しい国家間の大戦争を目の当たりにしている」と指摘した。
国連難民高等弁務官事務所が、昨年末の段階で民間人の死者を8千人以上としていることについては、「これは確認できているだけで、実際は万の単位で亡くなっていると思う。2014年の最初の紛争では欧州安保協力機構の停戦監視団や赤十字が入っていたため、人道物資の配送や仮設住宅の建設もできたが今回、ロシアの占領地域には入れない状況だ」と、人道危機の状況に懸念を示した。
また、「この戦争が国際社会に大きなインパクトを与えているのは、そもそも国連の常任理事国であるロシアが、侵略行為をしていること。道徳的な問題というよりは、国際秩序そのものを壊しにかかっている」と強調した。
ウクライナのゼレンスキー大統領に関しては、「コメディアン出身で、政治経験はない。完全無欠のヒーローだとは言わないが、『非常時のリーダーはこうであったらいいな』という理想の大統領を演じているとき、ものすごく輝く」と評価した。
ロシアとの間に北方領土問題や、日本企業が参画する石油・ガス開発事業「サハリン2」を抱えるため、政府がもっと中立な立場を取るべきだという一部の声について、「北方領土問題解決に向けた安倍政権の交渉にも、ロシアは極めて不誠実な対応だった。今ここで甘い顔をしても、問題が何か解決するとは思えない」と指摘した。
講演会は9日、千葉市美浜区のホテルニューオータニ幕張で行われた。