数年前から「何を食べるか?」よりも「食べるとは何か?」を考えることの方が多くなりました。きっかけは、2025年大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーを拝命したことです。今回のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。8人のテーマ事業プロデューサーがそれぞれの視点で「いのち」に向き合い、その本質をひもとき、持続可能な未来につながる行動変容を促します。
私の担当は「食」です。人類は食べることで、いのちをつむいできました。それは決してわれわれ人間だけではありません。あらゆる生き物が、自らのいのちのために、他のいのちをいただいて生きています。
かつて脚本家の倉本聰さんに理想の死に方を尋ねたところ、こんな答えが返ってきました。
「森の中で息絶えたい。倒れた僕の体を動物たちが食いに来て、骨だけになる。しばらくすると微生物が分解して、何もなくなる。そういう死に方がしたい。人間だって、循環の中の一部分でしかないんだよね」
そう、「食べる」ことを突き詰めていくと、循環というキーワードが見えてくるのです。循環のために必要な食の発明にワクワクします。新しい技術は驚きと感動に満ちています。一方で、日本古来の伝統食や郷土料理に新しいヒントがあります。食料を分け合うことの尊さと、食卓を共にする幸せを噛み締めたくなります。食べるとは何か?を考えていると、たくさんの気づきが生まれるのです。それが感謝の気持ちにつながり、明日への活力に変わる…。いのち輝く未来社会のデザインというテーマの、自分なりの解釈です。
食におけるその原点が、日本人には当たり前の「いただきます」という言葉に集約されているのではないでしょうか。その意味と価値を改めて考え、世界に発信することも万博の役目だと思います。
そもそも万博とは、国を超えて人類が知恵を出し合い、つながり、共に未来を想(おも)うためのお祭りです。まずは来場者に楽しいと感じてもらわなければいけません。その上で、よりよい未来につながる行動変容のきっかけとなる、明るい未来がよりクッキリと見える「心にかけるメガネ」のようなパビリオンを私は目指しています。(大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー 小山薫堂)
こやま・くんどう 1964年熊本県生まれ。放送作家、脚本家、京都芸大副学長。脚本を担当した映画「おくりびと」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、米アカデミー賞外国語映画賞を獲得。熊本県のPRキャラクター「くまモン」のプロデュースなど、地域創生プロジェクトに数多く関わる。企画・脚本を手掛けた映画「湯道」が公開中。