最後の最後で目覚めた。1点リードされた九回無死一、二塁、村上(ヤクルト)の打球が、中堅手の頭上を越える。走者2人が一気に生還して逆転。ヘルメットを放り投げて、歓喜の輪の中へと飛び込んだ。
「何度も三振をして、何度も悔しい思いをして、その中でチームメートが点を取って助けてくれて、最後、打席が回ってきた。最後は僕が決めたけど、チーム一丸となった勝ちかなと思っている」
苦しみ抜いた主砲の劇的なサヨナラ打で決勝進出を決めた。
劣勢の中、最後に巡ってきたチャンスだった。送りバントも頭をよぎったが、九回の打席に入る前、城石コーチに声をかけられた。「監督が『任せた』って。『思い切っていってこい』って」
4番に入った1次リーグ4戦は打率1割4分3厘と低迷し、準々決勝からは5番に〝降格〟した。この日も四回2死一、三塁の好機に見逃し三振を喫するなど4打数無安打と快音は響いていなかった。
それでも「最後はお前で勝つんだ」と言い続け、我慢して起用し続けた栗山監督。その思いを伝え聞いた主砲は「もう打つしかないな」と腹をくくり、指揮官の思いに応えた。
この日は序盤に3点を先制され、追い越せない苦しい展開が続いた。大谷(エンゼルス)は「何回か(心が)折れかけていたと思うが、最後まであきらめないという気持ちだけで、つないでつないで形になった」とベンチの思いを代弁する。
決勝の相手は米国。「最高の舞台で最高の相手。必ず勝つんだという気持ちで向かいたい」。世界一奪還へ王手をかけた。(神田さやか)