今月上旬、ロンドンのスーパーでトマトが品薄になっていることに気がついた。店員に尋ねると、生産地のスペインなどでの天候不順で「トマト不足に陥っている」と教えてくれた。だが、翌日再び訪れると同じ店員が険しい表情で「欧州連合(EU)離脱の要因もあるらしい」と声をかけてきた。

英メディアによると、英国のEU離脱で通関手続きが煩雑になり、スペインの生産者が英国での販売を敬遠しているとの情報が流れている。真偽は不明だが、英国民の多くが離脱の効果を悲観的に捉えていることは確かだ。2020年末の完全離脱後、EU域内から労働者の移住が減少。英経済は低迷し、最近の調査で離脱を「誤り」とする回答は5割を超えた。

離脱への「後悔」は有権者の心身に悪影響を及ぼしているようだ。16年の国民投票で52%が離脱を支持したロンドン郊外のエイルズベリーで取材した際のこと。離脱のことを尋ねるだけで暗い表情になり、黙り込む住民が多かった。「話したくない。覚えていないんだ」と泣きそうな表情で耳をふさぐ老人もいた。離脱支持の票を投じたことに罪悪感を感じ、体調を崩した人もいるという。

国民投票は結果次第で、有権者のその後の人生に大きな影響を与えるのだと実感した。(板東和正)

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