「時代遅れ」脱却なるか 経口中絶薬への期待と課題

2種類の錠剤を組み合わせて服用する経口妊娠中絶薬「メフィーゴパック」(ラインファーマ提供)
2種類の錠剤を組み合わせて服用する経口妊娠中絶薬「メフィーゴパック」(ラインファーマ提供)

国内初の経口中絶薬の承認を巡る審査が大詰めを迎えている。厚生労働省の専門部会が製造販売の承認を了承済みで、近く上部組織の薬事分科会で判断される見込みだ。予期せぬ妊娠に対し、初期の中絶法は妊婦の体への負担が重いとされる手術に限られており、承認されれば選択肢の拡大に期待がかかる。ただ緊急時の医療体制や費用の高額化を不安視する声もあり、課題も少なくない。

搔爬法は時代遅れ

人工妊娠中絶は国内では子宮内容物を金属製の器具でかき出す「搔爬(そうは)法」と管で吸い取る「吸引法」がある。だが、世界保健機関(WHO)は搔爬法を時代遅れとし、吸引法か薬剤による中絶を推奨している。

経口中絶薬はフランスで1988(昭和63)年に承認。今では70カ国以上で使用され、体への負担が少ない中絶法の一つとして認知が進む。こうした中、国内でも選択肢の拡大を求める声が挙がる。

性教育に関する情報発信や啓発などに取り組むNPO法人「ピルコン」の染矢明日香理事長は、予期せぬ妊娠をした当事者らの相談を受ける中、中絶経験に苦悩する姿を目の当たりにしてきた。

体内に器具を入れる処置に抵抗感や恐怖心を抱いた記憶を引きずる人が多く、罪悪感を感じて自分を責めたり、周りから心ない言葉を受けて傷ついたりするケースも少なくない。

染矢さんは「飲み薬であれば、付き添ってくれる人と一緒に経過を待つこともできるのではないか。女性たちが自身の体や心への負担を考えた上で、より安心と思える中絶法を選べる環境があることが大切だ」と指摘する。

診療体制に課題も

国内で承認を待つのは、英製薬会社ラインファーマが令和3年に申請した「メフィーゴパック」。妊娠9週までが対象で、妊娠継続に必要なホルモンの働きを抑える薬と36~48時間後に子宮収縮を促す薬の2種類を飲む。国内の治験では、服用後24時間以内に93%の中絶が確認されている。

メリットばかりではない。日本家族計画協会会長で産婦人科医の北村邦夫氏によると、医師の処置の下、数分~10分程度で完了する搔爬法と吸引法に対し、中絶薬は服用を終えるまでに数日かかる。服用後は出血が起き、子宮内容物が排出される。

北村氏は「女性自身が中絶完了を目視で確認するのは難しさも伴う」と説明。服用後の出血に強い不安を抱くことや子宮内容物がうまく排出されないケースなども想定されるという。

厚労省は当面は緊急時に備え、入院可能な医療機関で使用できるようにする見通しだが「中絶手術に対応してきた医療機関は無床施設も多い。診療体制をどう構築していくかは今後の課題といえる」(北村氏)。

高額化を懸念

費用の高額化を不安視する声もある。海外では千円以下で薬の入手が可能な国もあるとされるが、国内の価格設定は見通せない。公的保険適用外の中絶手術は10万円程度かかり、中絶薬も同程度になるとの見方もある。

予期せぬ妊娠をした女性の中には家族に打ち明けられなかったり、相手の男性と連絡が取れなくなったりして、中絶費用を用意できない人がいる。そのために消費者金融を頼ったり、体に負担がかかる仕事で働いたりといった道に追い込まれるケースもあるという。

染矢さんは「高額化で薬にアクセスできるハードルが上がるほど、リスクにさらされる人が出てくる。国には、少ない自己負担額で使用可能としてほしい。そうした環境づくりにより、中絶への偏見も減るのではないか」と話している。(三宅陽子)

人工妊娠中絶 母体保護法では、身体的、経済的理由で妊娠の継続が母体の健康を著しく害する恐れがある場合や、暴行脅迫を受けて妊娠した際に行うことができるとされ、妊娠22週未満に実施される。厚生労働省によると、令和3年度の中絶件数は12万6174件だった。

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