今から20年以上も前だが個人的にこんなことがあった。日本で出版した拙著『韓国人の歴史観』(文春新書、1999年初版)が韓国の新聞で取り上げられ〝妄言〟として非難された。事実としての「あった歴史」より、期待や願望の「あるべき歴史」が優先する―という韓国人の歴史観を批判し、日本統治時代の過去をもっと多角的に見てはどうかという、韓国の公式歴史観へのちょっとした挑戦だった。
これに対し早速、批判と抗議が殺到した。その一つが慰安婦問題の支援団体を率いていた尹(ユン)美香(ミヒャン)氏(その後、国会議員になった)によるもので、元慰安婦のお年寄りを伴って繰り返し押しかけてきて本の絶版を迫った。彼女らが何に抗議したかというと、慰安婦問題を論じた以下の部分だった。
「歴史的想像力を含めていえば、当時の日本軍と慰安婦の関係は、『強制と謝罪』の論者が言うような敵対関係ではなく、むしろ『協力関係』だっただろう。(中略)筆者は旧日本軍将兵のために苦労した元慰安婦の韓国人女性に対し、現代の日本人の一人として述べる言葉があるとすれば、それは『感謝と慰労』だと思っている」