ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、20日夜(日本時間21日午前)にメキシコとの準決勝を戦う日本代表「侍ジャパン」。投打の二刀流でチームを牽引(けんいん)する大谷翔平(エンゼルス)は規格外のプレーだけでなく、ベンチでの振る舞いや無邪気な笑顔でもファンをとりこにする。なぜ人々は大谷に魅了されるのか。
大谷が先発登板した9日の中国戦。東京都内のパブリックビューイング会場には、背中に「OHTANI」と書かれたユニホーム姿が目立った。日本ハム入団時からのファンだという札幌市の40代女性は「野球に対するひたむきな姿勢、目標を実現してしまう実行力がすごい。夢を与えてくれて感無量」と話した。
平成25~27年に日本ハムでヘッドコーチを務めた札幌国際大の阿井英二郎教授は、入団間もない大谷との会話が強く印象に残っている。入団前に米大リーグ挑戦を表明したが、「一番野球がすごいチーム・組織でやりたいとの思いがあり、それが米国だった」。その後の10年も「目標が明確。お金や名誉ではなく、勝負に挑む純粋さで突き進んでいる」と指摘する。
選手・大谷の魅力は何か。スポーツ心理学やコーチング論を専門とする阿井氏は「自分自身が一番のコーチ。二刀流に代表されるように常識を超えているが、自分と対話する中で『こうしたら面白い』という思考が生まれているのではないか」と推測する。
WBCではプレー以外にも、ガッツポーズなどでチームメートを鼓舞する姿が目を引く。「積極的にチームを引っ張るタイプではないはず。ただ自分の立場を理解し、何よりも日本で優勝したいという思いが強いのだろう」(阿井氏)
「WBC出場選手の中で最高の選手」とみるのは、総合野球データサイト「1.02」を運営する「DELTA(デルタ)」のアナリスト、宮下博志さん。昨季の大リーグの成績から、打者では「本塁打を放つ能力が有数」で、投手としても「球速がトップクラスで、変化球の変化も大きく、大リーグの選手を圧倒できる」と語る。
一方、対人関係を研究する和光大の高坂康雅(やすまさ)教授(青年心理学)は、大谷の魅力を「国内外問わず、老若男女全てに好かれる特徴がある」とたたえる。「他の選手より秀でた成績を残しているのに謙虚。謙虚過ぎても卑下した感じになってしまうが、ちょうどいい具合だ」と分析する。
代表初の日系人であるヌートバー(カージナルス)が大リーグで行う、こしょうをひく動作をまねた「ペッパーミル・パフォーマンス」を率先して披露。チームに一体感をもたらした点も、「スーパースターなのに親しみやすい」との評価を生み出している。
体つきや成績に対して幼い顔つきも、高収入なのにぜいたくさを前面に出さない点も好感を持たれる一因だという。高坂氏は「しっかりと成果を残した上で、さまざまなギャップのあるところがみんなを引きつけている」と強調した。(深津響)