1・5度抑制へ2030年CO2排出、半減必要 IPCC報告書

オーストラリア・ビクトリア州にある石炭火力発電所。IPCCの報告書は、石炭火力など化石燃料施設による大量排出の問題を指摘した=2022年8月(ゲッティ=共同)
オーストラリア・ビクトリア州にある石炭火力発電所。IPCCの報告書は、石炭火力など化石燃料施設による大量排出の問題を指摘した=2022年8月(ゲッティ=共同)

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は20日、今世紀末の気温上昇幅が1・5度を超える恐れが強まっており、この水準に抑えるには2030年に世界の二酸化炭素(CO2)排出を現状から半減させる必要があるとの報告書を公表した。今後10年間の対策が人類や地球に「数千年にわたり影響を与える」と警告、各国に抜本的な対策を急ぐよう求めた。

地球温暖化の重大な被害を回避するため世界はパリ協定の下、産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑えることを目指している。報告書は「気温は既に1・1度上昇しており、対策を強化しなければ今世紀末に最大3・4度の上昇になる」と予測した。

1・5度抑制のためには、19年と比べたCO2排出量を30年に48%減、35年に65%減とするなど短期間で大幅削減が必要だと強調した。

報告書は、日本にとってさらに踏み込んだ脱炭素政策を求められる内容となった。IPCCが定める基準未達の政策が散見される中、環境対策を重視する欧米の機関投資家の日本離れが加速する懸念も強まる。

ただ、環境政策に重点を置き過ぎれば、エネルギーの安定供給に支障がでかねない。先進7カ国(G7)議長国を務める日本としては、国益と脱炭素を両立させるメッセージを打ち出せるかも課題だ。

報告書は、石炭火力発電について減少・廃止の必要性を訴えており、2030年度に石炭火力発電を電源構成の19%とする計画を掲げる日本に対し、厳しい視線を向ける。

例えば、日本が推進する二酸化炭素(CO2)を排出しないアンモニアを20%石炭に混ぜて火力発電所で燃焼させる混焼は、IPCCが定める脱炭素基準には達しないとしている。

WWFジャパンの小西雅子専門ディレクターは「欧米系の機関投資家が参照する脱炭素基準は科学的知見により忠実だ」と指摘。50年までの温室効果ガス排出量実質ゼロの目標達成に向け、日本は今後10年で150兆円の官民投資を必要とするが「脱炭素移行の基準などが緩いままでは、日本は投資家にそっぽを向かれかねない」と警鐘を鳴らす。

一方、ウクライナ危機後に課題となったエネルギーの安定供給の解決を優先すべきだとの声も少なくない。

キヤノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹は、日本としてはCO2を排出せず、発電コストが安定している原子力発電の推進が、エネルギー安全保障と環境のバランスを図る上で有用性が高いとの見方を示す。「コストの高い再生可能エネルギーなど脱炭素に傾注すれば国益を損なうと注意喚起すべきだ」と訴える。

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