水辺に親しむことを通して、官民一体となって取り組む流域治水について考える「ミズベリング的流域治水シンポジウム@淀川」(近畿地方整備局淀川河川事務所主催)が2月22日、京都市内で開かれた。基調講演やパネルディスカッションが行われ、約100人が参加。研究者、建築家、自治体職員など、幅広い分野の人らが意見交換した。
みんなと一緒にやっていきましょうというのが流域治水
【話題提供】
「ミズベリング的流域治水とは?」 株式会社水辺総研 代表取締役/主任研究員 岩本唯史氏
ミズベリングとは、水辺とまちが一体となった景観やにぎわいの創出など、新しい水辺と社会の関係を生み出そうという活動で、ここ10年くらい取り組んできた。以前は、水辺を使おうと思っても、なかなか許可が下りない「管理された空間」だった。それが、平成23年に規制緩和があり、今まで駄目だったものが、「やっていいよ」と変わった。これまで民間が使ってはいけない、と言われていた川も、手続きを踏めば、民間も使える時代になった。水辺で活動している人間にはものすごく大きなニュースで、それを全国に伝えようと始まったのがミズベリングだ。ミズベリングは、ゼロから何かを作っていくことで、それは流域治水のテーマにも合致しているのではないかと思う。これまで堤防は、「水がもれない」という前提で整備されてきた。それが災害の激甚化によって、「もれるかもしれない」ということが前提になってきた。だから、みんなと一緒にやっていきましょう、というのが流域治水なのだと私は受け止めている。こうした前提の変化は、これまでできなかった社会的課題を解決するチャンスかもしれない。そんなわくわく感を持ってみなさんとやっていきたい。
やらされ流域治水から、やりたい流域治水へ
【基調講演】
「誰もが取り組める『小さな流域治水』」 滋賀県立大学環境科学部環境政策・計画学科 准教授 瀧健太郎氏
みんながわくわくしながら流域治水に参加できる事例として、近江八幡市立馬淵小学校で取り組んでいる環境学習、防災学習をたびたび紹介している。学習ではまず、児童に川で魚つかみをしてもらい、川の中のことを知ってもらう。2週目には、「みんなの住んでいるところは、川より少し高いところにあるよね」と川や堤防を含めた地域の在り方を説明。そして、「来週から防災の授業をするので、自分の家から避難所の小学校にちゃんと逃げて来られるか、チェックしておいて」と課題を出す。
すると、子供たちは、普段見ている通学路で、洪水が起こったらどんな様子になるのだろうと視点を変えて歩くようになる。「ここの水路に水があふれたら、うちのおばあちゃんが落ちるのでは」とか、いろいろ見つけてくる。最後に、それをマップにまとめて発表会をする。こうした川の学習では、治水のことだけでなく、利水のことも環境のことも教えられる。自分の目で見ることで、子供たちは自分のまちのことを考えられるようになる。その子供たちが10年後、20年後にも、その地域にいてくれると、それがまちづくりにつながっていく。これこそ、流域治水だと思う。
「小さな自然再生をサポートしてもらいたい」と徳島県神山町から声がかかり、現地に行ったときのこと。地元の人は、「この森を守ること、棚田を守ることが川を守ることになる」と言っていた。この地域では昔からの林業、農業をつづけることも流域治水。みんなが地域資源と暮らしを守ることが流域治水になる。これこそ流域治水の本質なのではないか、と思った。みなさんにも身近な水辺を経験してもらい、そこを守ったり、災害を防いだりすることを考えてもらえれば。それこそが流域治水ではないかと考えている。
ラグビー場を流域治水の聖地に
【事例報告】
「流域治水にTRY」 東大阪市上下水道局下水道部計画課 主任 長村(おさむら)翔 氏
東大阪市は、中小企業が集積するモノづくりのまちで、事業所数は全国で5位になる。もし、災害により操業が停止されると、国内外問わず、大きな影響が出る可能性がある。市域は、北を淀川、南を大和川、東を生駒山系、西を上町台地に囲まれた寝屋川流域に位置する。この地域は、すり鉢状の地形で流域面積の4分の3は、降った雨が自然に河川に排出されない厳しい地形条件となっている。そこで、国と府、流域関係11市が協力して寝屋川流域総合治水対策に取り組み、地下河川などの流す施設や遊水地などの水を一時的に貯める施設を建設している。同時に、市独自の対策として、既設の下水管のさらに深くに増補管というトンネルのような管を整備することで流下能力をアップ。ラグビーの聖地、花園ラグビー場として知られる花園中央公園内に遊水地と調節池の2つの貯める施設を整備した。平成30年7月豪雨の際には、これらの治水施設が効果を発揮。同等規模の雨が降った平成元年9月の浸水被害は191件だったが、それが0件に抑えられた。公園は、ラグビーだけでなく流域治水の聖地にもなっている。
「楽しい」に、防災の視点を
「明るく楽しくみんなで流域治水」
<パネリスト>
日本シティサップ協会代表 奥谷 崇氏
高槻市立自然博物館(あくあぴあ芥川)学芸員 北村 美香氏
大阪府立環境農林水産総合研究所生物多様性センター副主査 近藤美麻(みお)氏
東大阪市上下水道局下水道部計画課主任 長村 翔 氏
淀川河川事務所調査課長 田中 優太 氏
ファシリテーター:岩本 唯史 氏/ 瀧 健太郎 氏
岩本 自己紹介を兼ねて、みなさんの活動を。
奥谷 まちなかの水辺の価値と魅力をより多くの人に知ってもらおうと、SUP(スタンドアップパドルボード)を中心にスクールやツアーを有料で開催している。道頓堀川のネオン看板の下で記念撮影したり、大きい円形タイプに乗って水上で食事をしたり。最近は活動範囲が広がってきた。
長村 下水道は一般の人の目に見えないところにあるので、どう伝えていくかが難しい。ケーブルテレビの広報番組で年1回、特集を組んだり、YouTubeに動画を上げたりしている。「マンホール開けてみた」という短い動画は、1万回以上再生された。
北村 私は博物館の学芸員で、自然や川をきっかけに、わくわくしたり、どきどきしたりするような仕事や活動をしている。自分がおもしろいなと感じたものをたくさんの人に伝えたいな、治水や利水を楽しく身近に感じてもらえればと思って、紙芝居やすごろくも作った。
近藤 私は大阪の生物多様性に関する調査を行っている。また、子供たちを対象として、センターの敷地内の池で生き物を捕まえて、観察する体験をしてもらっている。水の中に何がいるのか、体験して知ってもらうことが、川に優しくしようというきっかけになれば。
田中 淀川河川事務所は淀川本川と桂川、宇治川、木津川までを管理、整備している。調査課では堤防の高さをどれくらいにするかなどを計画している。また、一般の人に淀川の歴史や整備について説明するようなこともさせてもらっている。
岩本 その他の活動や今後やってみたい活動は。
奥谷 平成30年に岡山県の真備町で川が氾濫し、まちが水に浸かったとき、ほぼ家の1階が浸かっている状態だったが、ゴムボートで十数人を救助することができた。SUPのように普段、遊んでいる道具を持ち寄って防災訓練みたいなことができればと思った。
長村 寝屋川流域は地盤が低く、どうしてもポンプを使わないと排水できないことがある。内水氾濫の対策をしている。
北村 川を行政に任せるのではなく、自分たちも地域の一員としてできる役割がある。それを楽しく議論していくのも流域治水のヒントになると思う。
田中 防災や避難の話を伝えるのは難しく、水害が起きないと危機感を持たない。みなさんの活動の中で、ちらっとでもそういうことに触れもらうと、伝わりやすいのではと思う。
近藤 専門家の力だけでは厳しいので、市民のみなさんの力を借りて調査をしていけたら。SUPで生き物調査など、楽しみながら生き物や川に目を向けてもらえるような仕掛けができたらいいなと思う。
岩本 まずは「知る」ということ。そして、自然のおかげで暮らせているという感謝の気持ちが大切。その気づきから多くのコラボレーションを生んでいくことが大切だ。
瀧 「楽しかった」に、ちょっと防災の視点が入るだけで、大きく社会が変わっていくのではないか。流域治水のために何かやらなければいけないと思わなくても、無理せず自分の責任を果たそうと思う人が増えれば増えるほど、流域治水が進むと思う。
提供:近畿地方整備局淀川河川事務所