【ニューデリー=広池慶一】岸田文雄首相が訪問先のインドで「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の新たな行動計画を発表したのは、20カ国・地域(G20)議長国を務めるインドを巻き込み、グローバルサウス(南半球を中心とする途上国、GS)への関与を強めるためだ。FOIP新計画に中国やロシアを意識した支援策をちりばめてGSを引き寄せ、中露に対抗する枠組み強化を目指す。
「次はインドに行きたい」
首相は今年1月、先進7カ国(G7)のうち欧米5カ国歴訪から帰国後、外務省に訪印を調整するよう指示した。インドは昨年3月にも訪れ、モディ首相との会談は既に3回実施していた。外務省幹部は「海外訪問国数を増やすなら他の選択肢もあったが、首相はそれだけインドを戦略的に重視していた」と語る。
インドは「未来の大国」として安倍晋三元首相の時代から関係強化を図ってきた。2007年には安倍氏がFOIPの基礎となる概念を初めて提唱した「始まりの地」でもあり、新計画の発表は自然とインドに決まった。
国際社会で存在感が増すGSは、独自の動きを見せ、「G7のような先進国クラブは敬遠されがちでアプローチが難しい」(政府関係者)。GSの代表格であるインドも全方位外交を展開し、ロシアとの伝統的な友好関係を維持する。
ただ、インドは今年、G20議長国としてGSの代弁者を自任。首相はインドと共通の課題に取り組むことで、G20加盟国に加え、中東・アフリカ、東南アジア諸国連合(ASEAN)などの途上国の理解を得たい考えだ。
一方、GSへの働きかけは中露も力を入れる。「人類運命共同体の構築」を掲げる中国は、サウジアラビアとイランの外交関係正常化の仲介役を担うなど存在感を示す。国連ではロシアへの制裁色が濃い決議案は反対や棄権が多く、その動向を左右しているのが国連加盟193カ国の約7割を占めるGSだ。
FOIP新計画は、ロシアのウクライナ侵攻を強く非難すると同時に、中国を念頭に「違法漁業による被害」や返済能力を超える「債務の罠」に陥った「スリランカの債務再編」に触れ、日本が懸案解決に向けて力になれるとアピールした。今後GSの支持を得て、FOIPの輪を広げるには首相のリーダーシップと実行力が問われることになる。