WBC

<特報>侍J支えるブルペンの〝魔術師〟 世界一奪還のカギ握る厚沢コーチ

侍ジャパンの強化合宿で、ブルペンで投球する宇田川優希(26)を見守る(左から)ダルビッシュ有、高橋宏斗、厚沢和幸コーチ=2月23日、ひなた宮崎県総合運動公園(水島啓輔撮影)
侍ジャパンの強化合宿で、ブルペンで投球する宇田川優希(26)を見守る(左から)ダルビッシュ有、高橋宏斗、厚沢和幸コーチ=2月23日、ひなた宮崎県総合運動公園(水島啓輔撮影)

野球の国・地域別対抗戦、第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本の投手陣を支えているのが厚沢和幸ブルペン担当コーチ(50)だ。日本ハム時代に栗山英樹監督の参謀役を務め、昨季は投手コーチとしてオリックスを日本一に導いた。3大会ぶりの世界一奪還へ、救援陣の調整を担う熟練コーチは「準備不足で選手をマウンドに上げることは絶対にさせたくない。試合をイメージさせて送りだせれば」と力を込める。

埼玉・大宮工高から国士舘大を経て、1995年にドラフト2位で日本ハムに入団した。左の本格派として期待されたが、現役9年間で1軍勝利はなし。それでも、2004年から就いたコーチ業で才能が開花。卓越した洞察力で、投手陣から絶大な信頼を集めている。

日本ハムで先発、日本代表では中継ぎを任される伊藤大海(ひろみ)はうなる。「(ベンチからブルペンに)電話が来ていない状況で『ここあるよ』とか『ちょっと動いといて』と言ってくれる。各選手の肩を作るルーティンも把握した上で準備させてくれるので、どの登板もスムーズに入れる。僕が対応しているというよりは、アツさんが対応させてくれている感覚が強い」。

ダルビッシュ有(パドレス)が先発した、10日の1次リーグ韓国戦でも直感がさえた。三者凡退に抑えた二回のダルビッシュの投球を見て、救援のタイミングが早まるかもしれないと察知。五回からの救援に向けて準備していた今永昇太(DeNA)に「たぶん四回で行きそうだね」と伝えて調整を早めさせたという。その後、ダルビッシュは三回に3失点。読み通りに四回から登板した今永は3回を1失点にまとめ、「まだ点を取られていなかった段階で予測をしていただいた。厚沢コーチのアドバイスで早めの準備ができた」と感謝した。

なぜ、早まると思ったのか。厚沢コーチは「これがあるから僕はここに呼んでもらっている」と不敵に笑う。詳細こそ明かしてくれないが、「投げていく様や表情、試合の流れ、相手打者との兼ね合い…。プレーボールからつながって、全部で判断している」という。

中継ぎとして自身が苦労した経験もあるからだろうか。選手の精神状態にも最大限に気を配る。「(球数の)何球目に合わせておいて」「大体このバッターからかな」「回途中からの登板はなさそうだね」。状況を判断しながら、リリーフのタイミングを逐一知らせるのは、「嫌なストレスを全部そぎ落としてあげたい」という親心から。昨季、オリックスで中継ぎとしてブレークした宇田川優希は、「厚沢さんは投手に無理をさせない。状態を見て、行けるか、行けないかも判断してくれるから、ブルペンでも迷いや不安なく過ごせる」と全幅の信頼を置いている。

各球団のエースが集う日本代表では、普段と異なる役割を任されている投手も多い。米国に場所を移しての準決勝では、状態の見極めも重要になる。いかに普段通りの状態で、投手をマウンドに送り出せるか。ブルペンの〝魔術師〟の腕が問われる戦いになる。

(運動部 川峯千尋)



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