話の肖像画

演出家・テリー伊藤<18> 常に「エポックを…」演出家の性(さが)

「ねるとん紅鯨団」の影響で、男女2人がカメラに納まる「ツーショット」という業界用語が広く一般で使われるようになった
「ねるとん紅鯨団」の影響で、男女2人がカメラに納まる「ツーショット」という業界用語が広く一般で使われるようになった

<17>に戻る

《人気お笑いコンビ「とんねるず」が司会を務めた「ねるとん紅鯨団」(フジテレビ系)は、昭和62年に放送が開始されると圧倒的な人気を博した。新たな出会いの場を提供する恋愛バラエティー番組。全米で大ヒットし、世界各国で放送されている「The Bachelor(ザ・バチェラー)」の放送開始より10年以上も前のことである》


「ねるとん紅鯨団」って、恋愛ドキュメンタリーなんです。これってまさに「ザ・バチェラー」ですよね。実は紅鯨団の前に、関西で「プロポーズ大作戦」(朝日放送制作)と「パンチDEデート」(関西テレビ制作)という恋愛バラエティー番組があったんです。

面白かったんですけど、プロポーズをする人たちが得意満面なのが気になっていました。関西の人だから、素人だけどしゃべりもうまい(笑)。でも、この人たちって、テレビに出たいんであって、恋愛には興味がないんだなって思ったんです。

関西の番組はスタジオ収録でしたが、今の恋愛番組って全部外で撮影してますでしょ。それには実は理由があるんです。

外だと、風で女の子のスカートが揺れる。朝もあれば昼も夜もある。だから、女の子の表情がどんどん変わっていくんですね。女の子が風で揺れる髪をおさえる。そういったしぐさも撮りたかったので、ロケにしたんですよ。


《複数の若い男女が気の合う恋人を探す「集団お見合い」。企画そのものも斬新だったが、業界関係者は当時、エポックを画(かく)する撮影手法に注目していた》


カメラを出演者のそばに置かなかったんです。それまでなかった手法で、俺が考えたんです。(司会の)とんねるずの2人は離れた場所に設置したモニターを見てしゃべるんです。タレントとカメラが出演者の近くに行くと、意識しちゃうし緊張する。それって、ワイドショーの追っかけみたいになって、出演者に自由がなくなるじゃないですか。

カメラは遠くにあった方がいいに決まってるんですよ。お見合いでも仲人さんが言うじゃないですか。「では、私たちはそろそろ席を外して、あとは若いお二人で」って(笑)。離れた場所に置いたモニターを見ながらタレントがしゃべるという手法は、あの番組が最初だったんです。


《男女2人がカメラに納まる「ツーショット」はもともと業界用語だったが、この番組がきっかけで人口に膾炙(かいしゃ)した。「ちょっと待った!コール」や「ねるとんパーティー」などの流行語も生まれている》


それまでナレーションはたいてい男だったんですけど、女の子を起用しました。オーディションをして、いちばん素人っぽくしゃべる人を選んで。俺は「客観的なナレーションじゃなく、きょう出演している女の子の気持ちでしゃべってほしい」って言ったんです。

それまでの恋愛番組は男主導でした。でもあの番組は女の子が主導なんです。うん、だから今っぽかったよね(笑)。

「二匹目のどじょう」って言いますけど、その方が企画は通りやすいんですよね。(テレビ)局の偉い人も、数字(視聴率)が読めるから、その方が安心できるのかもしれない。ドジョウも2匹目まではいるって言いますからね(笑)。

でも、俺はそういうの興味なかったから。作り手としてはやっぱり違ったものをやりたい。ブームになっているようなもの、もうトレンドになっているものはやらない。演出家ってみんなそうじゃないですか。何か新しいもんはないかなって、いつもそればかり考えていましたよ。(聞き手 大竹直樹)

<19>に進む

会員限定記事会員サービス詳細