各地の特産品を手にしたウサギやパンダたちのデジタルアート作品をふるさと納税の返礼品にしたところ、北海道余市(よいち)町で寄付額3万円の222点が3分で「完売」、他の全国10市町でも同様の事態となっている。あまりの人気に「#納税させろ」というハッシュタグ(検索目印)まで生まれ、年内に50自治体へ広がる勢いだ。ふるさと納税に何が起きているのか。
唯一無二の希少性
この返礼品は「ふるさとCNP」。CNPは「クリプト・ニンジャ・パートナーズ」の略で、デジタルアートの世界で大人気の動物などのキャラクターたちだ。
これらのデジタルアートには、NFTと呼ばれる最先端の認証技術がついている。デジタルデータは簡単にコピーされてしまうが、NFTは暗号資産(仮想通貨)の基盤技術を使い、ネットワーク上に情報が分散して記録されることから、複製が極めて困難だ。このため美術品の鑑定書のような機能を持ち、海外ではNFT付きデジタルアート作品が約75億円で落札されるなど芸術の一分野となっている。
ふるさとCNPのウサギやタカ、おろちたちも、各自治体のふるさと納税で返礼品として提供される222点の絵柄一点一点が少しずつ異なり、同じものは二つとない。唯一無二の「一点もの」の作品であることが、CNPファンの心に火をつけたようだ。
企画した札幌市のスタートアップ(新興企業)を訪ねた。
「きょう」を社名に
札幌市中心部に近いマンションにある自宅兼本社。代表を務める畠中博晶さん(26)は「何でも聞いてくださいね」と笑顔で招き入れた。
宮城県生まれ、東京都育ち。都内の中高一貫校をへて京都大に在学中、仮想通貨のビットコインを知り、父親から渡された車の教習所代30万円を元手に取引を始めた。稼いだ資金を手に令和2年3月、高校時代に大学受験の下見で訪れ気に入っていた札幌へ移住。その年の11月に起業した。
会社の名前は「あるやうむ」。大学時代の第2外国語だったアラビア語で「きょう」を意味する。キャラクターグッズの販売から始め、やがて取引経験を元に、NFTアートとふるさと納税を掛け合わせたまったく新しいビジネスを思いついた。
自治体向け情報誌にちらしを入れて広告した。10の自治体から連絡があった。その一つが、小樽市に隣接する余市町だった。
日本円で決済OK
町からの依頼は、地元の名産、余市ワインの魅力を宣伝すること。事業化に向けて、所管する総務省へ繰り返し問い合わせて準備を進めた。前例のない返礼品だけに、慎重な自治体も目立つ中、畠中さんは「余市町さんからは強い思いを感じた」と振り返る。
道内で活躍するNFTアート作家に作品の制作を頼んだ。ワイングラスを手にする女性や男性など、絵柄を少しずつ変えた54点が出そろった。
NFTアートは一般に仮想通貨で取引されるが、気軽に申し込めるよう日本円で決済できるようにした。寄付額は1点12万円。昨年5月7日、返礼品として提供を始めると、初日に54点すべてが「完売」した。
町企画政策課の冷水(ひやみず)祥平さん(29)は「最初は『NFTって何?』から始まったが、反響の大きさに驚いた」と話す。
昨年10月、満を持して「ふるさとCNP」のウサギ「ルナ」たちを世に送りだした。寄付額3万円のNFTアート222点は、3分後に申し込みの上限に達した。