「リトアニア・ウクライナ友好議員連盟」のメンバーとして、私たち議員はこの1年間、ウクライナを訪れたり、逆にウクライナ議長をリトアニアに招き議事堂で演説してもらったりしている。ウクライナが孤立無援ではないことを示したいからだ。財政支援や物質的な支援など「政治的な輸血」は必要な限り続ける。
ロシアが2014年、ウクライナ南部クリミア半島を併合したことは、リトアニア国民の意識を目覚めさせた。「ロシアは私たちの友人」というのは幻想だったのだ、と。それまで〝狂った隣人〟(ロシア)が本当に狂っているとは信じられなかったが、14年の危機で気付いた。敵が自分たちの背後の「玄関」にいるからではなく、実際に「玄関」を通過しようとしているから準備しなければ、との意識に変わった。
14年からリトアニア軍は大きな変貌を遂げた。15年には徴兵制が復活。国内総生産(GDP)に占める国防費も今、大幅に増額されている。14年までは、08年のリーマンショックの影響で低く抑えられていた。
リトアニアにはロシア系住民が5、6%おり、ロシア系住民保護との名目で、ロシアが攻め入るとの見方はいつも存在する。ただ、プーチン(露大統領)はそのような言い訳をそもそも使う必要がない。名目は何でもいい。プーチンがウクライナ戦争に至る道で使ったレトリックは狂気そのもので、ナチス勢力からの解放、などを持ち出した。彼はどんな理由をも創り出す。北大西洋条約機構(NATO)の基地が露国境に近いとか、西側の新たな兵器がロシアの脅威になっている-などだ。
リトアニア西隣のロシアの飛び地カリーニングラードには、ロシアの装備や兵器が集中し、「欧州で最も軍事化された地域」と言われてきた。ウクライナ戦争勃発で、バルト三国や周囲の地域にとって最悪の恐怖が現実のものとなった。一方、別の側面もある。バルト三国などの地域でロシアが今後、新たな戦線を開けるだろうか? それは不可能だ。NATOに挑戦しなければならず、計算が狂うことになる。NATOが参戦すれば「ゲーム・オーバー」だ。ロシアはウクライナ戦線に忙殺され、他の戦争を遂行できないとみる。
プーチンは戦術核であれ戦略核であれ、核兵器を使わないのではないか。使えば自らをコーナーへと追い込み、犠牲者になるだけだ。核兵器の使用は日本投下からの約80年間、タブーだった。使えば猛烈に非難されるということは日本人なら分かるだろう。核兵器使用は、ゲームのルールを完全に変える。ロシアには中国やイラン、インドなどの友好国がいるとはいえ、一線を越えることは自殺行為となる。(聞き手 黒沢潤)
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アルーナス・バリンスカス氏 リトアニア首都ビリニュス出身。英リーズ大卒(国際関係論)。2013~17年、リトアニア軍所属。18年に国会議員アドバイザー。20年から国会議員。リトアニア・ウクライナ友好議員連盟メンバー、リトアニア日本友好議員連盟会長。