ロシアのウクライナ侵略が始まってから1年以上になる。ウクライナは国際世論の支持、また日本や欧米の自由主義諸国の支援を背景に善戦しているが、いまだロシアに兵を引かせるにはいたっていない。
そうした中、1月25日、森喜朗元首相は東京都内のホテルで開かれた会合に出席し、「ロシアが負けることは、まず考えられない」と発言し、日露関係については「せっかく積み立ててここまで来ているのに、こんなにウクライナに力を入れていいのか」と政府のウクライナ支援を疑問視した。ロシア通の有力政治家の発言であり、日露関係の将来を懸念した発言なので、考えさせられるところが多い。
ただ、「ロシアが負けることは考えられない」というのは、どういう意味だろうか。たしかにロシアは資源大国であり核大国でもあるので、壊滅的な負け方をするとは考えにくい。
だが大切なことは、ロシアを負かすことではなく、ロシアがこの侵略戦争に勝たないようにすることである。そもそも、ロシアとウクライナの国力の差を考えれば、ウクライナがここまで善戦していることは、ウクライナの「勝ち」ともいえるのではないだろうか。その「勝ち」を確定させるには、さらなるウクライナ支援が必要である。
日本がウクライナを支援するのは、大国ロシアの不当かつ残虐な侵略に抵抗するウクライナ国民への同情ということもある。だがそれよりも、この侵略のような、力による一方的な現状変更の試みが世界のどこであれ再発しないようにするためである。とくに東アジアでは、ロシアに肩入れする中国による台湾への軍事侵攻が現実味を帯びているので、なおさらそのことが大事になる。もしロシアが侵略に勝利すれば、中国の背中を押すことになりかねない。問うべきは、「こんなにウクライナに力を入れていいのか」ではなく、「もっと支援できることはないか」なのではなかろうか。
もちろん、ロシアとの関係で、これまで積み立ててきたものを壊すのは残念だという気持ちはわかる。しかし、もし積み立てたものが壊れるとすれば、それは日本がウクライナを支援したからではなく、ロシアがウクライナを侵略したからであろう。ロシアとの関係は、ロシアがこの侵略をやめた後に一からまた築いていくしかない。その場合、今回のことで「日本を敵に回せば厄介だ」とロシアが悟れば、日露関係の長期的発展にとってはプラスになるだろう。
岸田政権が打ち出す国家安全保障戦略の要諦は、同盟国である米国や北大西洋条約機構(NATO)などの同志国と積極的に連携し、自由で開かれた今の国際秩序を守る中で、自国の安全と繁栄を守ることにある。
ウクライナ支援はまさにこの戦略を実践する政策である。ウクライナのゼレンスキー大統領は、岸田文雄首相のウクライナ訪問を招請している。岸田首相にはぜひ、万難を排してウクライナを訪問し、国際秩序を守るために努力する日本の決意を改めて世界に示してほしい。 (さかもと かずや)