代表者の死亡や信者離れで休眠状態となる宗教法人が全国で増える中、休眠化を防ぐ有効な手立てとなるのが、合併などによる法人の早期解散だ。しかし、休眠化の危機にある法人は、過疎化が進む山間部などに多い。合併の受け皿となる存続法人にとって、引き継いだ土地や建物を管理するのは負担が重く、合併に二の足を踏むケースもあるという。
天理教は積極推進
「山奥にある資産価値のない土地や建物を管理するのは、人繰りや維持コストを考えても限界がある。合併や任意解散をしたくてもできない悩みを持つ宗教法人は多い」。宗教法人制度に詳しい日蓮宗僧侶の長谷川正浩弁護士は、解散手続きの難しさをこう語る。
文化庁は、代表者の死亡などで休眠化して「不活動宗教法人」になる前に早期解散するよう呼びかけるが、現状ではそれを後押しするような対策はない。このため、過疎地を中心に檀家(だんか)や信者離れが進み、解散できないままの休眠法人が増え続けているという。
その中で文化庁も着目するのが、合併による解散を積極的に進める天理教(教会本部・奈良県天理市)の取り組みだ。天理教には全国約1万4千の教会が所属し、法人格のある教会は約1万2600(今年1月時点)。半世紀で後継者不足などから休眠化が懸念される数千法人を合併した。特に近年は力を入れ、昨年は合併させた法人が400を超えた。担当者は「法人格がなくなっても、宗教団体としては存続でき、コミュニティーの場所を残したいという教会側の思いも尊重できる」と力を込める。
休眠法人は暴力団などの第三者に悪用される懸念があるが、主に売買の標的になるのは独立系の「単立宗教法人」。規模の大きい宗派や教派は、代表役員の就任や不動産の処分といった際に上位法人(包括法人)の承認が原則必要で、天理教の場合も第三者が介入する可能性はほぼないという。担当者は「不活動法人を放置せず自主的に整理するのは〝公益法人〟としての責務だ」と強調する。
価値低く売却困難
ただ、宗教法人の合併は解散法人の不動産をどう管理するかがハードルになる。なかでも、大きな境内地や礼拝施設がある神道系や仏教系の法人は起源も古く、登記上の権利関係が曖昧なケースも多いため、簡単に片付く話ではない。
そもそも合併される法人は辺鄙(へんぴ)な場所にあり、老朽化した建物は資産価値が低く売却しにくい。倒壊寸前の建物を引き継ぐケースも少なからずあり、取り壊し費用を捻出できなければ放置せざるを得ない。ある宗教法人の関係者は「売却や再活用もできない不動産だと、合併を躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない」と打ち明ける。
国有化も活用未定
不動産処分に悩む法人にとって解決の先例となったのが、島根県大田市の浄土宗寺院「金皇寺(こんこうじ)」のケースだ。過疎化による檀家の離散や住職の死去で、平成26年に法人の解散を決定。本堂などを解体して境内地を売却するにも費用がかかり過ぎるため、令和2年6月から不動産の国有化に向け、財務省松江財務事務所との協議が始まった。
「処分されない財産は国庫に帰属する」とする宗教法人法50条の規定に基づく全国初の事例で、翌3年10月に約12万平方メートルの土地・建物の国有化が完了した。同事務所の担当者は「公共利用を前提に自治体への売却や民間への貸し付けができないか検討している」とするが、山林が大半を占める土地の活用法が決まる見通しは立っていない。
長谷川氏は「不動産を国有化して、法人を解散できても国が土地を有効活用できなければ、結局放置されたままになる。現状の解散の仕組みを再考する必要があるだろう」と指摘した。(「宗教法人法を問う」取材班)
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宗教法人、解散命令は年平均8件 過去10年 休眠法人の整理進まず