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ピッチ・クロックは野球を変える…WBCで感じた日米の差 植村徹也

4時間を超える試合となったWBCの韓国戦
4時間を超える試合となったWBCの韓国戦

どこかが違う。何かが違う…この違和感はいったいナニ? 答えは試合のスピード感だろう。

侍ジャパンが4連勝を飾ったWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の1次リーグ・東京ラウンドB組の試合と米国マイアミやフェニックスで行われているC組(米国・カナダ・メキシコなど5カ国)、D組(ベネズエラ・ドミニカ共和国・プエルトリコなど5カ国)の試合を見比べると違いを感じた。それぞれ接戦もあれば大差のつく試合はあったが、米国での試合の方が全体的にスピード感を感じた。投手の投げる球や打者の打球が速い? いやいやそういう意味ではなく、C組&D組の選手たちは次のプレーに対する備え、動作がスピーディーで試合の展開も総じてテンポよく速く感じられたのだ。

日本代表が戦った1次リーグの4試合。試合時間は初戦の中国戦が3時間41分で韓国戦は4時間超え。チェコ戦は3時間26分、オーストラリア戦が一番短くて3時間18分。大谷ら強力打線を警戒して相手投手が四球連発だったから、余計に試合時間が長く感じられたのかもしれないが…。試合開始も午後7時だったことで、子供やお年寄りは午後10時を過ぎても7回や8回…の試合展開に少々うんざりしたはずだ。「瞼が重くなって途中で寝た」という知人もかなりいた。ほとんど中高年の人たちだが…。

では米国のC組やD組の試合がなぜスピーディーに感じるのか。理由は今季からMLB(大リーグ機構)が採用した「ピッチ・クロック」と無縁ではない。大リーグは長時間の試合によるファン離れを危惧して、今季から新ルールを採用。例えば投手の場合、走者なしでは打者に対して15秒以内に、走者ありでは20秒以内に投げなければ違反として「ボール」を宣告される。逆に打者も投球に備える時間制限として、制限時間の残り8秒になるまでに打撃の態勢をとらなければならない。すでに大リーグのオープン戦では導入されていて、いきなり効果は出ている。試合時間は昨季の平均3時間1分から2時間38分に大幅に短縮された。

C組やD組の国には大リーグに所属する選手たちがたくさん主力メンバーとしてプレーしている。オープン戦で「ピッチ・クロック」を経験し、大リーグのシーズン開幕後も新ルール下で試合を行うため、同ルールが採用されていないWBCの舞台でも自然とスピーディーなプレースタイルとなった。なのでC組、D組の試合はテンポよく見えた。

では日本のプロ野球はどうなのか…と言えば今季も「ピッチ・クロック」を採用する考えはない。将来的な検討課題にはなっているが、12球団の経営者に「試合時間の短縮」という問題意識は極めて薄い。米国では野球以外にもアメリカンフットボールやバスケットボール、アイスホッケーという人気プロスポーツがあり、野球以外のスポーツの平均試合時間は2時間から2時間半。大リーグだけが3時間超え。なのでダラダラとした試合を放っておくと人気に陰りが出る…と危惧したわけだが、日本のプロ野球にはそんな危機感はない。大リーグとプロ野球の環境や背景の差が「WBC1次リーグで垣間見えた」と指摘してもいい。

「ピッチ・クロック」を導入するためには時間を計測する専用のマシンやオペレーターの研修が必要。細かなマニュアルがあり、一朝一夕には導入できない。来季から内容の濃い試合をテンポよく、スピーディーにファンに見せたい…とプロ野球界も本腰を入れるのであれば、もう準備に取り掛からないと遅い。長くてテンポの悪い試合にファンがうんざりする前に球界首脳は「3時間超え試合」への問題意識をもっと深めてもらいたい…。WBCの東京ラウンドを見て、痛切にそう感じた。 (特別記者)

【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) 1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。岡田彰布氏の15年ぶり阪神監督復帰をはじめ、阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。


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