3月末まで放送予定のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」の舞台、大阪府東大阪市の町工場で、新たなモノづくりへ挑戦する動きが広がっている。2025年大阪・関西万博やその先を見据え、夢の実現や飛躍を求めて〝舞いあがろう〟としている。
飛躍のカギは共創
「これ、ドラマで見た」
今月3日、同市内の町工場をめぐる日帰り体験ツアーが開かれ、参加者が思わず声をあげた。ひし形金網を製造する共和鋼業の工場では、ドラマで福原遥さん演じる主人公が製造を提案した「金網ハンモック」や起業会社「こんねくと」の看板なども展示された。
「日本は東大阪だけではないモノづくり大国。職人らがつくる過程も見てほしい」。このツアーのガイドをつとめたのは同市の照明器具メーカー、盛光SCMの草場寛子社長(49)。平成30年から同市で定期的に開催するオープンファクトリー(町工場公開)イベント「こーばへ行こう!」の旗振り役だ。朝ドラでは主人公がオープンファクトリーの開催を町工場仲間に提案していたが、その考証に関わった。
草場さんは、町工場が飛躍するには下請け体質から脱却し「新しいことへの挑戦」や中小企業の町工場同士が連携した「共創」のモノづくりが大事と訴える。
その具体的な動きが、同市内の町工場8社で共同製作した宣伝リヤカー「ウゴこーば!」だ。動く工場、動く交流の場という意味合いで名付けられた。草場さんの会社は照明器具の傘などをつくる技術「ヘラ絞り」で加工した車輪部品を担当。他の町工場は、ネジや金属加工といった役割を分担し、約1カ月半で2台を製造した。
リヤカーは今月5日の同市花園ラグビー場前でのイベントで初出店。高校生が社会体験事業として地元商品の魅力を伝える「高校生百貨店」とタッグを組み、女子高生らがPRした。
ドラマの影響で納期まで「3カ月待ち」(草場さん)という盛光SCMの工作キット「ひこうき」もリヤカーの棚に陳列され、話題を呼んだ。
草場さんは「町工場は売る機会が大事。高校生らには実社会の教育にもなる」と意義を強調する。
主人公と人生重ね
「ストーリーにすごく共感し、泣けてくる。何かをしなければ、と思った」
そう語るのは同市の段ボール製品メーカー、マツダ紙工業(しこうぎょう)の松田和人社長(60)。ドラマの主人公がパイロットの道を諦めたように、家業を継ぐため、証券マンを辞めた経験があるためだ。
そんな松田さんがドラマに刺激され作った新製品が、段ボール製で飛行機型の組み立て貯金箱「ドリームフライト」。2月15日に発売した。組み立てた飛行機に親子でそれぞれの夢を書き込み、その実現へ貯金できるようにした。
「貯金箱に書いた夢が10年後の将来にかなっていたら、当社や自治体、企業などが表彰するようなことを考えたい」という。関西国際空港に近い商業施設「りんくうプレジャータウンシークル」(同府泉佐野市)で3月25、26の両日、それぞれ先着50家族にこの新製品を組み立ててもらう無料体験イベントを開く予定だ。
実話の要素もシナリオ化
ドラマでは「東大阪の町工場で働く人たちの実話も盛り込まれるような形で、リアリティー(真実味)があるストーリーが展開されている」(東大阪市の関係者)という。
顧客の依頼をもとに職人らの技術力を生かし、新製品をつくって販売につなげるマネジメント会社「MACHICOCO(マチココ)」の戸屋加代社長(44)は、ドラマで製品開発の考証に協力した。
ドラマには、同社が開発したデザインパンチングの技術を使った照明器具やチタン製の指輪なども登場。放送後に大きな反響があった。「主人公のようにちゃんともうかるように実績をあげていかないとという思いが出てきた」と刺激を受けている。
東大阪の町工場の考証を担当したのは、元東大阪商工会議所常務理事の成瀬俊彦さん(79)。旧同市立三ノ瀬小学校で主人公らの幼少期の学校でのシーンが撮影されるなど、同市内の複数の場所でロケが行われた。主人公の実家のねじ工場などが立ち並ぶ町工場のシーンは、同市西部の「高井田あたりがモデルになっている」という。
町工場の考証役として、ドラマの台本原案に異論を唱えたこともある。主人公が実家のねじ工場を手伝う初仕事は、ねじの品質を目視確認するシーン。ただ、成瀬さんは「現実は機械化での確認が進んでいる」と指摘。ドラマの制作者側と「少量のねじの確認なら目視で」との形でシナリオが落ち着いたという。
ドラマは3月31日に最終回を迎える予定。成瀬さんは、紙飛行機がひらひらと姿や形を変えるオープニング映像にシナリオのヒントが隠されているとみており、終盤は2025年大阪・関西万博で実用化が目指されている「空飛ぶクルマが登場するのではないだろうか」と予想する。(西川博明、写真も)