地政学リスクなどを背景にエネルギー価格の高止まりが続き、脱炭素を目指す企業のGX(グリーントランスフォーメーション)が岐路に立っている。気候変動の影響が深刻になるなか、温室効果ガス(GHG)削減の加速が求められるが、市場環境の大幅な変動から投資などの判断は難しさを増す。いかに経営への影響を最小化し、GXを実現するか。10年以上にわたって企業の脱炭素化を支援するアビームコンサルティングが考える「経営とGXの両立」のポイントを探った。
Cyanoba(シアノバ)
大企業が入居するオフィスビルから高級賃貸マンション、スポーツクラブ、先進物流拠点まで━。モニターに映されたシートに多様な物件の名称がずらりと列に並ぶ。各行には電気やガス、水道の使用量に加え、GHG排出量の数値が記され、前年同月比の増減など変化を一目で把握できる。
約50物件を運用する機関投資家向け私募リート(不動産投資信託)「三井不動産プライベートリート投資法人(MFPR)」が、エネルギー管理に利用するGXマネジメント支援サービス「Cyanoba(シアノバ)」だ。アビームコンサルティングが2020年度から提供し、データ収集の体制構築から入力数値のチェック、月次報告まで手掛けている。
運用会社の三井不動産投資顧問の林英之・リート運用部シニアマネジャーは「MFPRはオフィスビルや賃貸住宅、商業施設など幅広い用途の物件があり、1棟から区分所有まで保有形態もさまざま。請求書や検針表などデータも複雑かつ膨大だが、システムの構築に加え、収集作業のサポートも得られたので100%近い数値を正確に把握できるようになってきた」と語る。
ESG対応の国際評価「4スター」に
住宅やオフィスなど建物由来の二酸化炭素(CO2)排出量は、日本全体の約3分の1を占める(※)。ESG(環境・社会・企業統治)投資が定着し、社会的な要請が高まるなか、不動産業界は上場リートを中心に対策への客観的評価を取得する動きが進んでいる。
MFPRは非上場ながら、21年度に不動産セクターのESG対応の国際基準「GRESB(グレスビー)」に参加。当初は5段階評価のうち中位の「3スター」だったが、重視されるエネルギーデータ収集の割合を高めたことで翌22年度に上位の「4スター」に昇格した。林氏は「正確に状況を把握し、しっかりモニタリングしていくことがCO2削減の第一歩」と指摘する。
エネルギー価格が高騰するなか、データ収集による「見える化」はファンドの運用にも役立っている。不動産の管理・運営は固定的な費用が多くを占め、光熱費は大きな変動要因の一つ。ファンドの収益を左右する不確定要素として、細やかな管理が求められる。林氏は「シアノバを活用することで、現状の使用量や単価を把握しながら運営を行うことができる。電力会社の動きやサービスの情報もアビームコンサルティングからタイムリーに共有されるので、スピーディーに対応できる」と実感する。
省エネ設備更新の効果の検証にも利用でき、賃貸マンション共用部の照明を全てLEDに切り替えたところ、月20~30%の電気使用量削減につながることが確認できたという。
排出量とコストを一元管理
幅広い業種の企業をパートナーとして支えるアビームコンサルティングは08年の京都議定書第一約束期間の開始やリーマンショック前の投機マネー流入による石油価格高騰を契機に、現在のGXマネジメントに発展するサービスをスタートした。立ち上げから携わる山本英夫・産業インフラビジネスユニット ダイレクターは「気候変動対策やエネルギーが経営課題になると考え、戦略策定からデータ管理、意思決定までPDCA(計画・実行・評価・改善)を継続的に支援するサービスを構築した」と振り返る。
この考えを具現化したのがシアノバだ。エネルギー使用量や温室効果ガス排出量に加え、コストまで一元的に見える化するGXマネジメントツールを中心に、国内外の法令や基準に則った情報開示・外部報告の支援、予算策定やロードマップ見直しなどを定期的に行う“伴走型”コンサルティングまでワンストップで対応する体制を整える。
電力やガスの使用量から排出量を自動算定する一般的なサービスに対し、アビームコンサルティングは10年以上にわたるノウハウや入力代行チームなど専門人材を生かし、適切で効率的なデータの収集法を提案。サプライチェーン(取引網)まで含めた排出量と合わせて、エネルギー使用料金を燃料費調整額や再エネ賦課金などの内訳まで管理し、最適な経営判断をサポートする。
伴走型コンサルティング
例えば、GXマネジメントツールでは再生可能エネルギーの購入や燃料転換など対策別に、導入後のCO2削減量とコストの推移をシミュレーションし、視覚的に投資対効果の評価が可能だ。一元管理しているエネルギー使用量や使用料金データを活用して、専門コンサルタントがアドバイスを行うことにより燃料価格や為替、カーボンプライシング(排出に伴う金銭的負担)など国内外の市場動向を反映し、環境変化に応じたロードマップの適切かつ効率的な見直しもできる。山本氏は「部門間の壁もあって排出量の算定や情報開示、投資などの判断は分離する傾向がある。一元的に管理することで、経営と一体化したGXを実現できる」と説明する。
シアノバは10年の提供開始からリートの保有物件などで採用が進み、現在は約500拠点で活用される。カーボンニュートラルへの取り組みが本格化し、削減目標へのロードマップ策定やデータ管理が全ての業種で広がるなか、今後の焦点になるのが対策の持続性だ。伴走型の支援を展開するアビームコンサルティングは将来を見据え、企業の再エネ事業の創出の立案なども手掛けている。
例えば、地域内の複数の企業などがともに再エネ調達会社を立ち上げ、電力を融通し合う新たなビジネスモデルを構築している。1社では限界のある削減量を持続的に拡大する効果が期待できるうえ、調達価格の安定にもつながるGXの選択肢になっているという。
山本氏は「2050年のカーボンニュートラル実現に向け、最適な投資判断が必要になる。短期的な対応に終わらせず、エネルギーコストの安定など経営と両立したGXを考えるべきだ」と話した。
提供:アビームコンサルティング株式会社
(※)環境省の2020年度温室効果ガス排出量(確報値)における「家庭部門」「業務その他部門」の合計。