日本人同士で食事代を割り勘する以外では、財布を取り出す機会がほぼない韓国。最近、キャッシュレス社会を改めて実感したのは、路上生活者が販売する雑誌「ビッグイシュー」を購入したときだった。
ホームレスの自立を支援する同誌の韓国版は日本版と同様、販売担当者が収益の約半分を得る仕組みになっている。社会問題に関する記事が多く日本でも時折購入していたが、今回支局近くで見かけた販売員に声をかけたところ、当然のようにクレジットカード読み取り機を示してきたのだ。
韓国で暮らしていると、ホームレスを目にする機会は一見、日本に比べて少ないように感じる。しかし、統計によれば韓国国内では約9千人が路上生活を送り、日本の約3400人(厚生労働省調査)に比べても相当多い。一定の収入に届かない高齢者の貧困率は約4割に達し、先進国では最悪の水準にある。
そんな中にあっても、電子決済に適応する姿を含めて彼らの「生活力」を感じさせられることは少なくない。福祉問題に詳しい韓国紙の知人記者によると、普段は住宅をまた貸しして路上生活を送り、極寒の冬季のみ路上を離れる「半ホームレス」も存在するという。日本以上の速度で少子高齢化が進む社会。その前面に立つ人々を、今後も追いかけたい。(時吉達也)