東京国立近代美術館は、1952年12月1日に開館し、先ごろ開館70周年を迎えました。これを記念し、明治以降に制作された絵画・彫刻・工芸の重要文化財68件のうち51点を集めた、これまでに類を見ない展覧会を開催します。とはいえ、ただの名品展ではありません。
なぜ、これが重要文化財なの?
本展は重要文化財イコール名品として手放しで礼讃するのではなく、「なぜ、これが重要文化財なの?」と考えてもらうことを真のねらいとしています。日本の近代美術は、それまでの日本の伝統と、西洋から次々と紹介される新しい美術との間でさまざまな葛藤を経ながら展開してきましたし、先行する世代の表現を批判的に乗り越えようとして展開してきました。だから発表当時はその表現の新しさで見る者をとまどわせた作品も少なくありません。
例えば原田直次郎の《騎龍観音》。ドイツで油絵を学んだ原田は、帰国後、仏教という東洋の主題を油絵という西洋の手法で描きましたが、伝統に則した平面的・装飾的な表現ではなく、陰影をもった立体的な観音像はまるで生身の人間のように見え、発表当時は不評だったといいます。しかし明治期において異文化を取り入れようとした模索のひじょうによく表れた大作として、2007年に重要文化財に指定されました。
多様な価値観の中で展開してきた近代日本美術のおもしろさ
このように、それぞれの作品が発表当時どのような評価をされていたのか、それがその後、どのような評価の変遷を経て、どのような理由で重要文化財に指定されることになったのかを見ていくと、多様な価値観のせめぎあいの中で生成してきた近代日本美術のおもしろさを実感していただけることができるでしょう。
(東京国立近代美術館副館長 大谷省吾)
開催概要
「東京国立近代美術館70周年記念展 重要文化財の秘密」
【会期】2023年3月17日(金)~2023年5月14日(日)
【会場】東京国立近代美術館
【主催】東京国立近代美術館、毎日新聞社、日本経済新聞社
【公式HP】https://jubun2023.jp/