いわゆる徴用工訴訟問題について、韓国政府が「解決策」を発表した。
その解決策は、韓国最高裁が日本企業に命じた賠償支払いについて、韓国政府傘下の財団が肩代わりすることなどが柱だ。岸田文雄政権はこれを受け入れたが、産経と各紙の論調は大きく分かれた。
岸田政権の受け入れ判断を「韓国の不当な振る舞いを糊塗(こと)する『解決策』への迎合」(7日付)と厳しく断じたのが産経である。徴用工の史実の解釈が異なったままの解決策では「日韓関係の本当の正常化につながらない。極めて残念だ」と主張した。
これに対し、朝日、毎日、読売など各紙は「安全保障協力を進めるために元徴用工問題の決着を急いだ判断を是としたい」(日経)と指摘し、産経とは対照的に、韓国政府の解決策や岸田政権の姿勢を評価する論考が目立った。
産経は「そもそも日本企業には『賠償金』を支払ういわれがない」と論じ、その根拠を2つ挙げた。
その1つは、徴用には国民徴用令という当時の法令に基づき徴用工には賃金が支払われており、「第二次大戦当時、多くの国で行われていた勤労動員にすぎない」とした。もう1つとして「日韓間の賠償問題は昭和40年の日韓請求権協定で『個人補償を含め、完全かつ最終的に解決』している」と明示した。
そのうえで「日本企業は史実と国際法を無視した韓国司法に言いがかりをつけられた被害者で『肩代わり』という表現も見当違いだ」と強調し、岸田政権は内外に対してこうした主張を訴えるべきだと求めた。
これに対し朝日は「日本政府は大法院(韓国最高裁)判決を国際法違反と批判してきたが、人権の普遍性を重視する潮流は強まっている」と分析し、そのうえで「徴用工らの被害の事実は、日本の裁判所も認めていることを忘れてはなるまい」との見解を提示した。
韓国側への「おわび」についても論調は分かれた。「痛切な反省と心からのおわび」に言及した平成10年の日韓共同宣言をめぐり、岸田首相は「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいる」と表明したが、産経は「政権が交代したり、何か問題が起きたりするたびに、関係もないのに謝罪の表明を繰り返す前例になることを恐れる」と釘を刺した。
しかし、東京は「日本政府は過去と向き合う謙虚な姿勢を忘れず、反省とおわびの気持ちをより明確に表さねばなるまい」と主張した。毎日も「韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との会談などで自らの言葉として明確に発信し、今回の解決策の精神を確認すべきである」と踏み込んだ対応を促した。
日本企業の対応をめぐっても賛否が分かれた。産経は、日韓の経済団体が若者の交流拡大の共同基金をつくるとの案を「『徴用工』問題と無関係だというが、そうは受け取れない。基金拠出は望ましくない」と疑問を呈した。
一方、朝日は「日本企業が自由意思で財団に寄付すれば、反発がくすぶる韓国社会の受け止めも和らぐことだろう」とし、東京も「企業責任について何らかの意思を示すべきではないか」と日本企業の責任にも言及した。
一方でこうした徴用工問題が2015年の慰安婦問題をめぐる合意のように、政権交代のたびに蒸し返される事態を懸念する指摘もあった。
読売は「韓国が元徴用工問題を蒸し返すことがないよう、日本は今後の動向を注視する必要がある」と求めた。また、日経も「韓国政府は政権交代後に蒸し返されないよう国民の理解を得てもらいたい」と注文を付けた。
歴史的な事実や対等な外交に基づいた日韓関係を構築するための道のりは、まだ遠いと言わざるを得ない。(長戸雅子)
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■「徴用工」の韓国解決策をめぐる主な社説
【産経】
・対韓外交「謝罪」で時計の針戻すな (4日付)
・安易な迎合は禍根を残す (7日付)
【朝日】
・日韓の協調こそ時代の要請 (7日付)
【毎日】
・日韓関係立て直す起点に (7日付)
【読売】
・日韓関係改善の契機としたい (7日付)
【日経】
・尹氏の決断を日韓の正常化につなげよ (7日付)
【東京】
・日本の協力が不可欠だ (7日付)