「パレオアート」という言葉をご存じですか? 「古生物美術」とも訳されるこの言葉は、現存しない太古の生物や風景を科学的知見と画家の想像力で描き出す、科学と美術の交差する一分野を指しています。兵庫県立美術館で開催中、東京・上野の森美術館にも巡回する特別展「恐竜図鑑―失われた世界の想像/創造」には、そんなパレオアートの名品が集います。恐竜ファンと美術ファン、いずれにも必見の展覧会です。
人類誕生よりはるか昔、地球上を闊歩(かっぽ)した巨大な〝トカゲ〟―恐竜の存在が認知されたのは、いまから約200年前。歯の化石がイグアナの歯に似ていることから名づけられたイグアノドンは、その最初期に化石が発見された恐竜の一種です。発見者の英国人医師、ギデオン・マンテルの依頼で描かれたジョン・マーティン《イグアノドンの国》では、まさにイグアナのような四つんばい姿で描かれています。鼻先の角も、とても特徴的です。
1878年に完全骨格が発見され、その姿は修正を加えられました。20世紀に東欧チェコスロバキア(現チェコ共和国)で活躍したズデニェク・ブリアンの描いたイグアノドンは、尾を地面につけて直立する肉食恐竜のような顔立ちで、特徴的な〝角〟と考えられていた化石は、実は両手の親指であったことも描かれています。
1960~70年代、恐竜研究の世界に「恐竜ルネッサンス」と呼ばれる大きなパラダイムシフトが起きました。爬虫(はちゅう)類と同じように変温動物だと思われていた恐竜が、少なくとも一部は恒温動物で活発に活動していたと考えられるようになったのです。この最先端の研究成果はパレオアートにも反映され、画家たちは躍動感のある恐竜を、より魅力的に描き出すようになりました。イグアノドンも草食の鳥脚類で、前傾姿勢や4つ足で俊敏に動くと考えられるようになったのです。
展覧会ではこの3つの姿のイグアノドンの絵画や立体造形も展示され、恐竜像の変遷をたどることができます。ちょっとかわいらしいイグアノドン〝3兄弟〟のイラストをあしらったグッズも販売しています。
大人にとっては、少年の日に図鑑で親しんだ「あの頃の恐竜たち」が、恐竜大好きな現代の子供たちにとっては、初めて出会う未知の生物に見えるかもしれません。恐竜を描いたアートでもあり、古生物学の進展を人々に分かりやすく提示するツールでもあるパレオアートの世界。子供も大人も、それぞれの観点で楽しめる展示は、親子がそれぞれの視点で楽しめる貴重な展覧会です。鑑賞した後、親子で感想を比べてみるのも面白いかもしれませんね。
開催概要
特別展「恐竜図鑑―失われた世界の想像/創造」
【巡回公式WEBサイト】 https://kyoryu-zukan.jp/
《兵庫展》
【会期】 2023年3月4日(土)~5月14日(日) ※月曜休館
【会場】 兵庫県立美術館(神戸市中央区、阪神岩屋駅より徒歩8分、JR神戸線灘駅、阪急神戸線王子公園駅から各10分、20分)
【主催】 兵庫県立美術館、産経新聞社、関西テレビ放送
【協賛】 DNP大日本印刷、公益財団法人伊藤文化財団
【公式WEBページ】 https://www.ktv.jp/event/zukan/
《東京展》
【会期】 2023年5月31日(水)~7月22日(土)
【会場】 上野の森美術館(東京都台東区、JR上野駅・公園口より徒歩3分)
【主催】 産経新聞社、フジテレビジョン、上野の森美術館
【後援】 TOKYO MX
【協賛】 DNP大日本印刷、JR東日本