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ダルビッシュに家族が説いた「人の道」 社会貢献続ける理由とは

ブルペンで笑顔のダルビッシュ=宮崎
ブルペンで笑顔のダルビッシュ=宮崎

ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で8強入りした日本代表の投手陣を牽引(けんいん)するダルビッシュ有(36)=パドレス=が、かねて力を入れてきたのが社会貢献活動だ。未来を担う子供たちのため、米大リーグで勝利を重ねるごとに寄付を続けるチーム最年長右腕。なぜ人を助けるのか。その原点には家族が説いた「人の道」があった。

「頑張って勝利した分を支援してもらい、(寄付には)重みがある。すごく感謝しているし、元気をもらっていることを伝えたい」。大阪府の私立大3年の男子学生(21)は、「恩人」であるダルビッシュの存在をこう語る。

男子学生は、ダルビッシュの出身地、大阪府羽曳野市にある児童養護施設「羽曳野荘」の出身者。施設で暮らしていた高校3年の時、ダルビッシュからの寄付を原資にした奨学金制度の対象者に決まり、大学卒業までの間、月5万円を受け取ることになった。

「ダルビッシュ有子ども福祉基金」をうけて大学に行った男子学生=10日午前、大阪府羽曳野市(須谷友郁撮影)
「ダルビッシュ有子ども福祉基金」をうけて大学に行った男子学生=10日午前、大阪府羽曳野市(須谷友郁撮影)

夢だった大学生活は新型コロナウイルス禍が直撃。苦難もあったが、奨学金は何よりの励みになり「気持ちを立て直せた」。今は経営学を学び、就職活動に励む。中條薫施設長(58)は「施設を出て1人で自立し、生活を始める子供たちにとって大きな支えになっている」と語る。

公式戦で1勝するたびに羽曳野市に10万円を寄付する「ダルビッシュ有子ども福祉基金」を始めたのは、日本球界に在籍していた平成20年度。市は基金をもとに、児童養護施設に野球用品を寄贈したり、図書館に「ダルビッシュ有文庫」を設けたりしてきた。養護施設を巣立った人向けの奨学金制度もその一つだ。

若手時代から地球環境や世界の不平等を意識してきた。東京のNPO法人と協力し、水不足や水汚染に苦しむ発展途上国に安全な水を提供するための基金も19年に立ち上げている。災害や難病支援にも熱心だ。

ダルビッシュはなぜ社会貢献活動を続けるのか。その原点には家族の存在がある。

イラン人のファルサさん(62)と日本人の郁代さん(64)の間に生まれたダルビッシュ。本人の説明では、最初の寄付は10歳のころ。ルーツのあるイランを大きな地震が襲い、父から小遣いを送るよう提案されたことがきっかけだった。交流サイト(SNS)で当時を振り返ったダルビッシュは、英語でこう胸の内を語った。「多くの人を助けたい。死やがんに限らず、何からも」。

慈善活動にひたむきな精神はほかの家族も共通する。母の郁代さんは平成30年、羽曳野市内で子供食堂を始めた。「社会の財産である子供たちを輝かせてあげたい」との思いからだった。

郁代さんは取材に「有はラッキーにも今の場所にたどり着いた。自分に余裕があれば、そうではない人を助けるのが人としての道だ」と話す。

ダルビッシュ有選手の母、郁代さん=神戸市中央区
ダルビッシュ有選手の母、郁代さん=神戸市中央区

最年長選手として侍ジャパンの先頭に立つダルビッシュ。若手選手にとっては「雲の上の存在」といえるが、チーム合流直後から積極的にコミュニケーションを取る姿が目立っている。「良くても悪くても、後輩たちに何かを伝えられるような試合をしてほしい」と郁代さん。求められる役割はこれまで以上に重い。

日本は16日の準々決勝で、番狂わせで大会を盛り上げるイタリアと対戦する。世界一まであと3勝。アスリートである意味を噛み締めながら、チーム最年長の求道者はマウンドに立つ。(前原彩希)

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