野球のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で1次リーグB組を1位通過し、準々決勝進出を果たした日本代表「侍ジャパン」。1次リーグで4戦全勝のチームを牽引(けんいん)したのが、日系選手で初の選出となったラーズ・ヌートバー外野手(25、カージナルス)だ。ガッツあふれる懸命なプレーでチームを鼓舞するだけでなく、安打を放った際のパフォーマンスはチームに浸透し、関連グッズの販売も人気に。明るくまじめな性格はチームに活気をもたらしているだけでなく、ファンにも親しまれている。
試合前の「声出し」にも参加
1次リーグの大一番となった10日の韓国戦の試合前。チームを鼓舞するためにベンチ前で行われる〝恒例行事〟の「声出し」に指名されたのは、ヌートバーだった。
「兄弟として、家族として、残り6試合。昨日(の中国戦)で緊張は解けて、きょうは自由に動こう」と英語でチームメートに伝えた後、「ガンバリマス! サー、イコウ!」と日本語で語りかけると、チームメートから大きな歓声が沸き起こった。
#カーネクスト2023WBC東京プール
— 野球日本代表 侍ジャパン 公式 (@samuraijapan_pr) March 10, 2023
第2戦・韓国戦の円陣声出しは #ヌートバー 選手!
▼侍ジャパン試合速報https://t.co/GKopEqeVfS#侍ジャパン #WorldBaseballClassic pic.twitter.com/cLlF7PKBqj
この様子は侍ジャパンのツイッター公式アカウントでも動画付きで公開されると、「いいね」は8万6000件に到達。返信(リプライ)にも「もう立派な侍」「本当にナイスガイ」といった声が寄せられた。
3日からチームに合流して以来、大会本番までの出場機会は限られていた。しかし、大会本番に入ると9日の中国戦で2安打を放ち、その後も1番打者として4戦全てで安打をマーク。守備でも10日の韓国戦で好守を披露し、全力疾走も欠かさない。
打席に入る際には、所属する大リーグ・カージナルスの本拠地ブッシュ・スタジアムと同じように、ファンから「ヌー」の掛け声がかかる「ヌーイング」も発生するようになった。適時打を放った後に外野の守備につく際には、帽子を取ってファンにお辞儀する日本式のプレースタイルもWBCでは見せている。
WBCのツイッター公式アカウントは「ヌート(ヌートバーの愛称)は日本を愛し、日本もヌートを愛している」とツイート。ヌートバーが日本に溶け込むだけでなく、日本のファンからも親しまれている様子を紹介した。
パフォーマンスから関連グッズ販売に発展
ヌートバーの活躍はチームだけでなく、他競技のスポーツ選手や、関連グッズの販売にも波及している。
安打や本塁打を放った際、コショウ(ペッパーミル)をひく動作をする「ペッパー・グラインダー」のパフォーマンスはヌートバーがきっかけとなったが、今ではチームの代名詞として浸透。サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会で日本代表として活躍した堂安律選手(フライブルグ)は、試合中にペッパー・グラインダーのパフォーマンスを行った写真を自身のインスタグラムに投稿した。
一方、スポーツ用品メーカーのミズノでは、このパフォーマンスをモチーフにした「ペッパーミルフェイスタオル」(3300円)を数量限定で10日から東京ドームの特設ショップで販売を開始した。
ミズノによると、「試合当日に販売された数量分については、即日で完売するほどの人気」だといい、13日からはミズノの直営店でも販売をスタート。「今後は公式オンラインショップでも受注販売を開始する予定」(ミズノ)だという。
ダルビッシュは「勇気をもらっている」
チーム内外に波及効果をもたらすヌートバーに敬意を示しているのが、チーム最年長のダルビッシュ有投手(パドレス)。今では日本人大リーガーで屈指の実績を誇る右腕も、日本のプロ野球から米大リーグに飛び込んできただけに、その苦労は人一倍分かるようだ。
「異国の地で(野球を)やるのは難しい。それを感じさせず、国やチームに対して自分から溶け込む気持ちがすごく感じる。(ヌートバーから)勇気をもらっている」
大谷翔平選手(エンゼルス)は、ベンチの中でもヌートバーに積極的に声をかけている一人。ヌートバーについて「十分にチームに溶け込める人間というか、人柄だと思う」とした上で「ファンの声援が大きければ大きいほど本人のやる気もそうだし、自分が日本の国に受け入れられているのかどうかが分かると思う。ぜひ素晴らしい声援を送ってもらえれば、僕としてもうれしい」と理解を求める。
「これまで、日本の野球は想像でしかなかった。実際に自分がジャパンのユニホームを着て経験できていることは、本当に大きい」というヌートバー。チームに不可欠な「サムライ」の一人として、チームを3大会ぶりの頂点へと導く。(浅野英介)
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