給湯器まだ使えるのに嘘つき交換 大阪ガスを名乗った「コバンザメ夫婦」の悪質手口

民家に設置されたガス給湯器がまだ使えるにもかかわらず、取り換えが必要と住人に噓をつき、給湯器販売と設置の名目で金をだまし取ったなどとして、兵庫県警生活経済課が詐欺などの疑いで、訪問販売業の40代夫婦を逮捕した。夫は大阪ガス(大ガス)のロゴを名刺に無断で使用。同社の代理店を装い、高齢者宅などを訪問していた。民家から取り外した給湯器を、別の家で同様の手口で交換する際に使い回すという大胆な手口だったが、取り付け工事の施工が甘すぎたために発覚した。

「大阪ガスです。給湯器の点検に伺います」

令和3年6月23日ごろ、兵庫県西宮市の無職男性(78)宅に同市の訪問販売業の女から1本の電話があった。同日、女の夫が男性宅を訪問。大阪ガスサービスショップと記載された名刺を差し出し、こう切り出した。

「給湯器は設置から10年がたっています。すぐにでも交換したほうがいいですよ」

男の話を信じた男性は製品代や交換費用として25万円を支払った。だが、給湯器は平成30年9月に設置した製品で、当時は約2年9カ月しか経過していなかったことが型番から判明している。捜査関係者は「設置後10年というのは明らかに噓だ」と明かす。

県警生活経済課は今年1月、詐欺と特定商取引法違反容疑で男を逮捕。翌2月に同容疑で男の妻を逮捕し、男を再逮捕した。同課によると男は顧客へのアポイントの際に「大阪ガス」などと名乗り、名刺に同社ロゴを無断使用するなどし、正規の代理店を装っていたという。

夫婦は「大阪ガスとは言っていない」「10年経過と言っていない」などと容疑を否認。だが同課はロゴ入りの名刺を夫婦宅から押収しており「大阪ガスと名乗ったからこそ相手は信用した」とみている。

給湯器使い回し、犯行重ねる

点検を口実に主に高齢者宅を狙って、設置と交換を繰り返した巧妙な手口。どのように発覚したのか。

令和2年12月に起きた同様の手口の事件では、男に取り換え工事を依頼した西宮市の無職女性(84)宅の給湯器が市内の別の民家に取り付けられた。だが、この民家への設置工事は施工に不備があったとみられ、その後水漏れが発生。住人が正規代理店に連絡し、現地に赴いた職員が型番を確認したところ、西宮市の女性宅の給湯器であることが判明したという。

取り換え工事は、男の知人男性が担当し、県警の調べに「給湯器を用意するのは男で中古品を取り付ける工事もあった」と説明。男からは中古品を使うことを施工先に了承されていると説明を受けていたという。

大ガスによると、2年6~10月、「大阪ガスをかたる不審な男がいる」と正規代理店などから通報があり発覚。同社は男に勝手にロゴを使わないよう2度にわたって警告したが、男が行動を改めないため県警に相談した。

男は顧客名簿を元に高齢者宅を訪れていたとされるが、実際に大ガスの正規の名簿かどうかは確認できていない。元大ガス社員ではないという。

3年で4300万円

平成31年から令和3年の約3年間に、男は兵庫・大阪の両府県で高齢者宅などを訪問。計274件の給湯器交換工事を請け負い、売り上げは約7千万円に上った。給湯器の仕入れや取り換え工事を行う知人への工賃などを除いた約4300万円を得ていたという。

県警によると押収された訪問販売の売上表には給湯器の仕入れの代金が記載されていない工事が約20件含まれており、県警はこれらの工事で使い回しが行われたとみて捜査した。ただ被害者が高齢で記憶があいまいな部分があり、立件はうち2件にとどまった。

その後、神戸地検尼崎支部は、特商法違反罪で男を略式起訴。尼崎簡裁は罰金30万円の略式命令を出した。一方、同支部は男の詐欺罪と女の同罪、特商法違反罪については不起訴とした。同支部は不起訴理由を明らかにしていないが、交換の必要のない給湯器を取り換えていたのは、図らずも男自身が、元の給湯器を使い回したことで証明していたといえる。

大ガスの看板を借りて顧客を誘導する「コバンザメ商法」のような手口で収益を上げてきた男。被害者は金銭被害に加え、正規代理店が取り付けた給湯器ではないため大ガスの無料修理サービスを受けることができなくなったという。

大ガスによると、この事件以前から、同社や関係会社の社員と偽った電話や訪問で個人情報を聞き出したり、点検・修理と偽って代金を詐取したり、強盗したりする事件が起きているといい、ホームページ上で手口を紹介している。担当者は、同社グループの訪問時は原則制服と名札を着用していると説明。「不審に思ったら社員証の提示を求め、当社に問い合わせてほしい」と呼びかけている。

問い合わせはフリーダイヤル(0120・0・94817)へ。

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