衝撃事件の核心

楽天モバイルに実損100億 「3兄弟」の錬金術

楽天モバイルの携帯電話基地局建設を巡る詐欺事件で、約9億円の水増し請求をしたなどとして、警視庁捜査2課は詐欺容疑で同社元幹部を含む3人を逮捕した。捜査2課は、一連の契約の総額約300億円が不正請求にあたると判断。水増し額は100億円に達するとみられる。事件は基地局建設に携わった企業が経営危機に陥るなど、楽天モバイルを中心とした企業に大きな影響を与えた。

実損100億か

捜査2課は3日、詐欺の疑いで、同社元物流管理部長の佐藤友紀(46)▽委託先の物流会社「日本ロジステック」元常務の三橋一成(53)▽下請け先の運送会社「トレイル」社長の浜中治(49)-の3容疑者を逮捕した。

逮捕容疑は令和3年7月下旬ごろ、楽天モバイルが携帯電話の基地局建設に必要な部材運搬や保管を日本ロジに委託した際、共謀して約9億円を水増し請求し、それを含む約25億円をだまし取ったとしている。

捜査関係者によると、3人は基地局の部材を運ぶ車のチャーター費や部材を管理する倉庫の坪数などを水増し。一部は京都府の企業に対するコンサルティング料として支払っていたが、企業の代表は佐藤容疑者の妻で、コンサル業務の実体はなかったとみられる。不正請求の総額は令和元年~3年では約300億円に上り、楽天モバイル側に与えた実損は約100億円に上るとみられる。

「長男、次男、三男」

巨額の詐取金はどこに消えたのか。捜査関係者によると、詐取金の多くを得ていたのは佐藤容疑者で、約50億円を受領しているとみられる。不正に得た金は高級車や不動産投資などに充てられたという。

捜査2課は不正に関与した三橋、浜中両容疑者も不正な利益を得たとみている。捜査関係者によると、水増しした金の一部は日本ロジの運転資金としても利用されたとみられるが、ある捜査関係者は「会社としての利得か個人としての利得かは、悪質性の差はあるが水増し請求による詐欺が成立することに変わりはない」と指弾する。

一方で、不正請求が始まって以降、飲食店で一度に数百万円を消費したり、レーシングチームの運営に乗り出したりと多額の金を費消するようになっていたという浜中容疑者。ある関係者によると、「5~6年ぐらい刑務所に入る覚悟はある」と捜査の手が及んでいることを察した発言もしていたという。

また、浜中容疑者は「長男は佐藤、次男は三橋、三男が自分」と不正請求の構図について説明し、「長男がお金がいるから動いた」と話していたという。ある捜査関係者も「絵図を描いた佐藤容疑者がいなければこの不正は始まらなかった」と指摘。捜査2課は佐藤容疑者が事件を主導したとみて捜査を進めている。

下請け会社にも余波

影響は基地局建設を担う現場を支えた企業にも及んだ。不正請求を受けて楽天モバイルが日本ロジとトレイルとの取引を停止したり、預金口座の差し止めをしたりしたことで、両社の下請けへの工事代金支払いが滞ったからだ。

「大変な迷惑をこうむった」。トレイルから設置工事を請け負ったにもかかわらず、代金を受け取れていない福岡県の建設会社「信和」の堤信太朗社長はそう憤る。支払いを求めて、同社と別の企業はトレイルを提訴。訴状によると、トレイルと基地局工事の請負契約を締結した両社が工事を進めたものの、4年6月~8月分の代金を取れていないという。

トレイル側は支払い義務は認めるが、楽天モバイルが取引を停止。銀行口座も仮差押えされ「支払いの原資がない」と説明している。訴状では、楽天側にも説明を求めたが、具体的な対応策は示されなかったとしている。

信和の未回収代金は約1億4千万円。堤社長によると、その支払いが受けられない中で従業員への給与や孫請けへの代金支払いに追われたという。しかし、昨年12月には全従業員を解雇せざるを得なくなり今は社長1人で稼働する。

2月に行われた第1回口頭弁論にトレイル側が出廷することはなく、訴訟は終結。今月、請求が認められた。堤社長は「元従業員が不正に関与しているのだから、楽天側も手を差し伸べる道義的責任があるはずだ」と訴える。原告側代理人の西依大輔弁護士は「楽天側と話し合う場を模索したい」としている。

楽天モバイルは産経新聞の取材に「個別の取引先からさらに業務を委託された取引先について、何らかの対応や関与を行う立場になく詳細の回答は控える」とコメントした。(宮野佳幸、塔野岡剛)

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