わが国はたびたび大きな地震に見舞われてきた。代表的なものに、12年前に起きた東日本大震災と、阪神大震災、そして、発生から今年で100年となる関東大震災がある。3つの大地震を被害状況でみてみると、その様相が異なっていることが分かる。それぞれの死因として特徴的だったのは、津波による溺死、建物倒壊などによる圧死や窒息死、火災による焼死だ。地震はいつ起きるか、そして、どこで遭遇するかも分からない。被害を最小限に食い止めて、生命と財産を守るためには-。災害への備えや避難、救助などについて、知識と技能を持つ民間資格「防災士」の認証機関であるNPO法人「日本防災士機構」の中野篤氏に聞いた。
ためらわず避難/すぐに高台へ
東日本大震災(津波)
東日本大震災(平成23年)では大きな津波が発生し、死者の9割が溺死するという状況を招いた。
まず、自宅などが津波の到来する場所かどうか、被災想定区域や避難場所・経路などを示したハザードマップなどで確認して、事前に避難場所や避難経路を確認しておくことが重要だ。
中野氏は「津波から避難する際には、ためらうことが一番危ない」と警鐘を鳴らす。東北の三陸地方に伝わる「津波てんでんこ」とは、「津波に襲われたときは周りに構わずてんでんばらばらに逃げろ、自分自身が助かれ」という意味。実際、岩手県釜石市などでは、この伝承が生き、被害縮小につながった事例がある。いち早く、少しでも高い場所へ、というのは震災が残した教訓だ。
中野氏は「家族などが気になるだろうが、あらかじめ各自が避難することを約束事として、避難を信じることが重要」と念を押した。津波は早い場所では数分で到達するため、荷物は最小限にとどめ、すぐさま逃げることが必要だ。
また、中野氏は「自宅で介護している高齢者がいる場合、一緒に避難するのは厳しいものがある」と話す。自治体や自治会、ケアマネジャーなどと連携して、独自の避難計画を事前準備することを推奨する。
震災でどのような災害が起きたとしても、1人で全てに対処することは難しい。そのため、中野氏は「人や組織を超え、地域全体で災害時の協力関係を結ぶ必要がある」と訴えた。
台所に消火器/暖房器周り注意
関東大震災(火災)
関東大震災(大正12年)が発生したのは、土曜日の正午前という時間だった。
昼食どきの地震で多発した火災が台風による強風にあおられて、炎を伴う竜巻状の渦(火災旋風)が発生したとみられている。これが、焼死者を増やす一つの要因となった。
中野氏によると、現在は大きな揺れを感知すると自動でガス供給が停止する仕組みとなっていることが多く、「まずは身の安全を第一に行動して、火元からは離れるべきだ」と呼び掛ける。
だが、すでに火が近場の布などに燃え移っている可能性もある。揺れが収まったら火元を確認して、引火していた場合は消火が必要となってくる。
初期消火のため、火を使うことが多い台所への消火器設置を推奨する。ただ、炎が天井に燃え移るような高さになった場合は「自力の消火は難しいため、すぐに離れる必要がある」と指摘。周囲に火事を伝え、避難を促すことを求めた。
火災の原因として、ストーブや電気器具も挙げる。中野氏は「周辺に可燃物を置かないことはもちろん、避難する際には各電気器具の電源を消す必要がある。もし手間ならブレーカーごと落とすこと」という。ブレーカーを遮断することは、停電から電気が復旧することで発生する通電火災を防ぐことにもつながる。
また、「大きな災害では消防などの救護が遅れることを前提に行動をする」必要性を説き、地域単位での事前準備を求めている。
家具を固定/救助は分担し連携
阪神大震災(倒壊)
阪神大震災(平成7年)では、建物が倒壊したことによる窒息死や圧死が死因の7割以上にのぼった。
地震発生が午前6時前の早朝とあって、就寝中や出勤、登校の前に自宅で強い揺れに襲われた人も少なくなかったとみられる。
倒壊から身を守るために必用なこととして、家具の固定や家屋の耐震診断が挙げられる。耐震性に不安があるようなら補強工事をするべきだが、中野氏は「予算の都合などがある場合は、寝室やリビングのみ補強するという手段もある」と提案している。
また、食器棚の扉をロックしたり窓ガラスに飛散防止フィルムを貼ったりすることも避難経路確保などに効果がありそうだ。
阪神大震災では「挫滅症候群(クラッシュシンドローム)」と呼ばれる疾患による死者が出た。建物の倒壊に巻き込まれて下敷きになった人を救助する際には、筋肉組織の損傷で、大量の毒素が血流で広がり、心臓や腎臓の不全を引き起こす可能性がある。このため、経口補水のほか人工透析や点滴・輸血などの適切な治療が求められる。
救助活動は、消防や近隣の医師を呼ぶことや二次災害に巻き込まれないためにがれきなどを監視する人も必要。中野氏は「かなりの人数が必要で、役割分担を決めて作業を行う連携プレーが求められる」とした。
このほか、屋外で揺れを感じた際には、ガラス窓や看板が落下してくる可能性もあるため、かばんなどで頭部を守ることも重要だ。
(吉沢智美)