「要救助者、発見」
1月中旬、約20人の自衛隊員と県警の警察官が神奈川県厚木市内の採石場で車を覆っていた土砂をバケツリレーでかき出していた。ものの数分で車体の半分ほどがあらわになり、要救助者を模したダミー人形が助け出された。近くに設けられたテントの指揮所では県、自衛隊、警察、消防の関係者たちが情報を共有した。
東日本大震災を教訓に公的機関は対応力を高めてきた。県警は阪神大震災(平成7年)の後に設置した危機管理対策課に即応対策チームを立ち上げ、現場で活動する機動隊をサポートする形で救助活動の高度化を図る。警察庁の旗振りのもと、留守宅の空き巣対策や避難所でのケアのために出動する態勢も充実させた。県警幹部は「機動力と地域警察としての親近感を生かした活動が求められている」と話す。
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大災害の発生時、警察や自衛隊、消防などが救助活動しやすいように調整し、国とのパイプ役も担う県は「県地域防災計画」で地震や風水害など災害とその程度にあわせて警戒レベルを設定。深夜の発災でも速やかに対応できるように泊まり込む職員の数を増やした。
被害軽減に向け、行動計画「県地震防災戦略」も策定しており、住宅の耐震化、津波からの一時避難施設や避難路の整備といった重点施策を掲げる。「人口、地形などで必要な対策は違い、自治体支援を通じて防災に取り組む必要がある」(県担当者)。
都市部の横浜市では帰宅困難者対策が大きな課題となった。東日本大震災のときには横浜駅周辺で約3万人の帰宅困難者が出たとされ、市は「一斉帰宅抑制の基本方針」を策定し、企業などに従業員の3日分の水や食料の備蓄を要請。民間施設を含め一時滞在施設も指定し、災害時に開設状況を確認できる「一時滞在施設NAVI」のウェブサイトを用意している。
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こうした組織間の連携、情報発信は通信網が確保されてこそ力を発揮する。東日本大震災で携帯電話やインターネットがつながらなくなる課題に直面した携帯電話会社は車載型基地局、船舶型基地局を活用するなどした対応策に力を注ぐ。
KDDIは今月、米スペースXの衛星ブロードバンドインターネット「スターリンク」を利用する車載型基地局と可搬型基地局を今年春以降、順次導入することを発表。2日に横浜市内で行った防災訓練でこの可搬型基地局を披露したほか、小型無人機(ドローン)で携帯電話の電波を探知して要救助者を発見する技術も紹介した。
防災力を高める取り組みは続くが、南海トラフ地震や首都直下地震といった大災害では、公的な救助が間に合わない事態も想定されている。東日本大震災から12年。犠牲者を悼むとともに、命を守るため一人一人が備えを見直すことが重要になる。
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この企画は橋本愛、高木克聡、大島直之が担当しました。